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凸版印刷株式会社

商品プランニングの戦略と戦術~トッパン商品企画×カンロ~

商品プランニングの戦略と戦術

マーケティングリサーチからのターゲット分析、コンセプトの構築、そして商品デザインに至るまで、いまや商品プランニングには総合プロデュース力が求められる時代となっている。
一つの分野にのみ長けているだけでは足りず、幅広い分野の知見と技術力、そしてなにより正しく市場を見極める“眼”が必須である。
これからの商品開発、商品プランニングは何を重視しどう進めていくべきか? その鍵は企業のシーズと消費者のニーズをどう繋ぐか、にあった。

ニーズ(需要)とシーズ(企業の潜在能力)の調和が新たなヒットを生む

カンロ株式会社が期待した“トッパン商品企画”との化学反応

カンロ株式会社。飴やグミなどのお菓子を専門とする日本有数の菓子メーカーである。 当然自社での商品開発の実績も高く、この専門分野においては十分な知見と経験値を有している企業だ。そんな企業がトッパンでクライアントの商品プランニングを担う部門である商品企画に、”ある案件”で協力を依頼したのは2019年のこと。

その“ある案件”とは『ミントグミの商品化』。

 この『ミントグミ』、トッパンが共創に合流した時点では【i-mint】と呼ばれていたが、現段階では【ナチュリーフ】と名称とターゲットが変更された結果、テスト販売では一定の成果をあげているとのこと。本項ではこの共創案件をケーススタディとして、そのキーマンたちの言葉を基に商品プランニングの最適解を探っていくことにする。

TOPICS【カンロ『ナチュリーフ』】
カンロ株式会社が今までにない新しい“ミントグミ”という分野を開拓するべく開発を進めている商品。 以前は主に男性向けの【i-mint】という名称で開発が進められていたが、トッパン商品企画との共創で感度の高い成人女性にターゲットを変更し、名称も【ナチュリーフ】に。テスト販売において一定の成果をあげている。

※現在、一般販売はしておりません。


→カンロ株式会社

お集まりいただいたのはカンロ株式会社で商品企画を担当し、この案件では現場の統括を務めている商品企画部課長、高島稔昭(敬称略)。そして同じくカンロ商品企画部では主にデザイン関係を担当した係長の飯田理枝子(敬称略)。そしてトッパン商品企画からは全体のプランニングを担当した伊藤友香の3名だ。

※取材はソーシャルディスタンスやマスク、飛沫感染予防アクリル板など新型コロナウイルス感染症に対する対策を充分に考慮し、 撮影を行っています。(距離を取ったうえで撮影時のみ一時的にマスクを外しています)

まずは依頼の経緯をかいつまんでお話しいただいているのだが、すでにそこにヒントは隠されていた。

カンロ株式会社 高島稔昭(以下高島):グミはガムの代用としての存在価値があるのではないか、 という想定をもとに数年前から着想していたのがこのミント味のグミでしたが、なかなか市場で受け入れられず、一度コンサルティング的なところを入れてみてはどうか、と。

トッパンさんと共創するに至った理由ですが、我々はご存知の通り飴やグミなど専門のお菓子メーカーなのでそれゆえに視野が狭くなってしまっていた部分があったと自覚していました。他社様との共創ということになった場合、違った視点からのアイデアや可能性を期待していました。

そのなかでなぜトッパンさんに決めたかというと、まずは我々が欲している実績、且つミント菓子に対する知見をお持ちだったということが一つ。 それにプランニングの部分でも素晴らしいクリエイティビティが見え、一緒にやっていきたいと思いました。

さらにトッパンさんとであれば包材まで含めた一気通貫で関わってもらえる、ゴールまで一緒に走っていけるのではないかと感じたことが決定の根拠でしたね。

専門業態だからゆえの視野の狭さ。それこそがこの後の大転換に繋がってゆく。

共創ワークは“否定”から始まった?新しい視点からのニーズの掘り起こしとは

違った視点を持つ両者が共創することで初めて見えてきたもの。それはあるジャンルを専門に扱うメーカーが陥りやすい部分だったと高島氏は言う。

高島:トッパンさんの強みだな、と感じたのは調査、そして分析からの仮説、仮説に基づいたプラン設計ときちんと順を追って進めていた部分。もちろん調査などはカンロでもやるのですが、今回で言うとミント味の需要は男性のほうが高いということもあり、当初からターゲットは男性と決めつけて設定してしまっていました。




凸版印刷商品企画 伊藤友香(以下伊藤)
今だからお話できるのですが、私としてはこのプロジェクト開始当初から、もしかしたらターゲットは男性だけではないのかな、という疑問がありました。
ミントということで言えば一般的には眠気冷ましのような機能性の高いガムに採用されることが多いのですが、この商品はグミだったこともあり、「ミント=機能性」で推すことからくる座りの悪さが際立っていました。

つまり「美味しくなさそう=機能性が高いと嗜好が満たせない」という印象になっていました。しかしグミにまず求められる要素は嗜好なのではないか。
だったらまずは「おいしそう」と思わせる嗜好価値を高め、そこにプラスαとして機能価値が付与しているというバランスの方がよいではないか。そうであればニーズは男性よりも女性という可能性がある、という仮説を立てました。

ポテンシャルのターゲットを把握するためにまずは社内座談会を開き、様々な層の意見を取り入れ仮説を検証したうえで、「この商品が持っているポテンシャルにマッチするメインターゲットは男性ではなく女性です」と否定させて頂きました(笑)。

高島:気持ちの良い否定でしたね(笑)。 我々も頭ごなしに否定されたら反発もしますが、先ほど申し上げましたように、伊藤さんをはじめとしたトッパンさんのやり方にはしっかりしたプロセスがあったので説得力がありました。

カンロ株式会社 飯田理枝子(以下飯田)
私もi-mintを食べた時に美味しさよりもミント感の方を強く感じてしまって。 パッケージもやはり男性に寄せたような感想を持っていたので。 だからこのメインターゲットを変更するというアイデアはとても腑に落ちましたね。




高島
:こうした過程を経て作り込んでいくとしっかりと仮説を立てた上に、結果に根拠が乗るので説得力が出る。すると我々も社内で話を通しやすくなる。私は個人的に「トッパンメソッド」と呼んでいましたが(笑)それがちゃんとある。だからこそ思い切って方向性を180度転換することができたんです。

TOPICS“SNSでバズる”パッケージの可能性 |凸版印刷商品企画の挑戦

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→“パッケージで未来を創る”トッパンの商品企画のコラムはこちら

“カンロ”の持つシーズを最大化させ新たな価値を創出

 つまり商品が本質的に持っていた「ニーズは男性ではなく女性にある」という部分をまずは共創によって掘り起こしたわけだが、もちろんこれだけでは最適解とはならない。良いプランニングとは、それをどれだけ巧みに生産者側のシーズに落とし込むか、を重視すべきだからだ。


伊藤:私がなぜあえてこれまでの流れを否定して、これだけの大幅なターゲット変更を進言させていただいたのか。その理由は、カンロ様の資産や魅力はやはり専門分野である嗜好品としての飴、今回でいえばグミに対してのモノづくりへのこだわりを強烈に感じたからです。

これだけのモノづくりができるのであれば、市場が求めているコンセプトやターゲットなどマーケティングから導き出した“こういう商品であるべき”という答えに味や食感、見た目も合わせてくれる技術力があると。

加えてカンロ様としても市場が求めているものを作っていくよ、という想いが当初から感じられたので、我々も正直に“市場が示すこの方向に向かうべき”と進言させていただきました。

技術力に裏打ちされた、そういった想いや姿勢こそがカンロ様の魅力であると私は感じていますし、だからこそ転換したコンセプトやターゲットにカンロ様のシーズをマッチさせることができるはずだと。

高島:今回の案件に関してはここにいる私たちだけではなく、それこそマーケティングや研究担当者、現場の営業担当者に至るまで、組織横断的に関わることでそれを実現することができた、という部分はあります。

コンセプト、デザイン、技術力…トッパンの“見える化”力とは

商品開発においてターゲット設定からの商品コンセプトがその企画の柱になる。そこから紐付けた形で諸々のデザイン制作やサンプル作成と企画が進んでいくが、この過程においてこそ、実はトッパン商品企画の真の強みが隠されている。それは、それぞれの段階における“見える化”の徹底だ。

飯田:私は主にパッケージを担当していたのですが、提出していただいたデザイン案を初めて見た時にとても素敵だな、と感じたのが、提案デザインに加えて関連市場商品のビジュアルコラージュが添えられていた点です。

提案デザイン単体だと結局は好き嫌いで終わってしまうのですが、関連ビジュアルがあることによってデザインの根拠が視覚的に入って来ますし、たとえちょっと違うと感じても、こっちの感じかなというように修正のイメージもディスカッションしやすくなる。チームの複数でイメージを共有できるこういった手法はとても良いなと感じました。

伊藤:我々はこういった手法で進めていくのが基本です。コンセプトありきのデザインなので、提案物が果たして正しいのかという検証も含めてこういった提案方法を採り入れています。

コンセプトシートにしてもデザインシートにしても、一つの案ではなくて、他も見て判断したいというのは人間の心理として当然です。ですから我々は判断に迷った時でも対等に判断できる要素を揃えた上で、我々としてはこちらの案がおすすめです、という提示方法をとります。 理由はこうだから、という根拠を見える化し提案に落とし込んでいるので。その場合、中心となるものを描きつつ幅のある中から選択していただきたいので、提案内容は割と振り切ったものを提示することも多いです。

コンセプト提案も同様ですが、我々の仕事は答えを出すことではなくて、判断材料をどう的確に“見える化”して提供できるか、というのがよい提案だと思っています。

高島:そういう意味でもトッパンさんならではと感じさせてくれたエピソードがありまして。

実は今回、パッケージのサイズがキーになっていたのですが、いよいよパッケージのサイズを考えましょうとなった際、商品の性質的にお腹いっぱい食べるものではないし、バッグに入れても邪魔にならず、なおかつ印象の新鮮さも持たせたいね、という話の流れになったのです。

そうしたらそのすぐ後に設定されていたパッケージのグループインタビューに間に合わせるようにトッパンさんが当初考えていたより一回り小さいサンプル製作の対応をしてくれました。 こういう機動力、対応力の高さは製造と一体になっているからこそだな、と感じました。

伊藤:時間のない中で手にとって触れる現物サンプルを用意できたことでグループインタビューでの評判も好評で。現物がある無しの反応の違いは調査結果にも如実に表れますから。ここも“見える化”なのですが、紙の上のデザインでは伝わらない現物の良さも含めて提示できるところは我々トッパンの強みだなとは思っています。この小さくするというアイデアは高島さんがヒントを与えてくださっていたんです。

高島:たまたま他の案件などで最近小さいパッケージが好まれている傾向がある、という話がありましてそれを反映できないか、と。トッパンさんならこういう情報を共有すれば何らかのフィードバックをしてくれるだろうな、という期待はありました。仕様やデザインに関しては、デザインチームの理解度の高さが特に重要だと思うのですが、トッパンさんにはそれがあったのでとてもスムーズに進みましたね。

双方の信頼関係が“風通しのよい共創”を生む

インタビュー中でもしばしば言われているように、このミントグミ案件はカンロ株式会社とトッパン商品企画との共創案件として現在も進行中である。商品プランニングでの“共創”をより良くするにはどんな関係性を築くことが必要なのだろうか。

伊藤:パッケージサイズの件もそうなのですが、高島さんや飯田さんをはじめとしたカンロの皆様は常に、トッパンさんならできますよね?という我々を信頼し垣根を取り払ったスタンスで積極的に情報を出してくれていました。そうすると我々もそれに応えたいな、と前のめりになりましたし、我々の否定も含めて受け止めてくださる風通しの良さはカンロ様ならではです(笑)。
共創という意味では理想的な関係性だったと思います。

飯田:是非これからも気持ちよく否定していただきたいですね。どうしても社内での企画開発は同じ方向、同じ視点から抜け出せなくなってしまうことが多々あるので、同じゴールに向かって走っていてもそこに追従するだけではなく、違った方向からの刺激をいただけたらと思います。外部の方々と組んでやる意義ってそういう部分だと思っていますので。


伊藤:我々の仕事はクライアント様にはない知見や経験値から導き出した視点からのご提案ですので、結果的に否定になってしまうこともありますが(笑)。
ただそれはきちんとしたロジックと根拠があった上でのことですし、結局はそれを受け入れてくれたカンロ様あっての成果だと感じています。

カンロ様のように柔軟な考え方と信頼関係を大切になさっている企業様との共創は、個人的に非常に理想的なのではないかと考えます。

高島:組織としては所属が違いますけど、共創関係というのは同じモノづくりに向かっていくチームだと思っています。

特にトッパンさんは一気通貫でパッケージの製造までできるということは、“この商品が売れればお互いに利益が上がる”というWIN-WINの関係なわけです。そういった意味でも確かに理想的ですよね(笑)。

一つではない最適解をどう創出していくか、それが企業の強みとなる

“戦略と戦術”。マーケティング界隈ではよく耳にするキーワードであるが、ではトッパン商品企画のスタイルに則って今回のケースを当てはめて“見える化”してみよう。

<戦略(目的)>
→ “売れる商品”と“作りたい商品”を一致させる

<戦術(手段)>
→ 実在する人間のニーズからターゲットを設定
→ ニーズを踏まえてクライアントシーズを最大化
→ 根拠となる“見える化”を徹底し実現力を高める
→ 風通しの良いチーム作りからの信頼関係構築


結局のところ、世に存在するあらゆる商品の数だけ“商品プランニング”という考え方が存在すると言える。必ずしもこれが全てに通ずる完璧な答えだ!と言い切れるものは無い。

トッパン商品企画×カンロが共創した【ナチュリーフ】案件を解析することで見えてきた“戦略と戦術”も、あくまでも商品プランニングにおける一つの最適解でしかない。

重視すべきなのは、どのような企画案件であれ、そこに気づきを持ち“最適解”を提示できる企業の強み及び総合力そのものなのだ。

カンロ株式会社 
マーケティング本部 商品企画部
課長 
高島 稔昭様








カンロ株式会社
マーケティング本部
商品企画部
係長 飯田 理枝子様








凸版印刷株式会社
生活・産業事業本部
パッケージソリューション事業部 
伊藤 友香





※企業名・所属は2019年11月時点

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