制汗デオドラント市場でNo.1の売り上げを誇るデオナチュレシリーズが、環境配慮を背景にプラスチック製外装パッケージから紙化への大胆なリニューアルを成し遂げました。特徴的なブリスターケースからの変革を実施。売り上げが伸長するとともに、2024年には「JPC(ジャパンパッケージングコンペティション)」では一般社団法人日本印刷産業連合会会長賞を受賞。基幹ブランドでの環境対応がもたらした意外な効果と、技術革新による新たな価値創造について、プロジェクトを推進した株式会社シービック様とTOPPANの担当者に話を伺いました。
■インタビュイー
株式会社シービック
• 山口絵里 様(デオナチュレブランド全体マネージャー/当時の女性用デオナチュレシリーズブランド担当者)
• 表美穂 様(現・女性用デオナチュレシリーズブランド担当者)
• 津金美緒 様(当時の資材担当)
TOPPAN株式会社
• 飯塚明子 (当時の営業担当)
• 佐藤慶太 (パッケージ構造設計)
• 西部有起 (現・営業担当)
中学生の声から始まった基幹ブランドの挑戦
デオナチュレシリーズは制汗剤カテゴリーNo.1の基幹ブランドですが、プラスチック製外装から環境に配慮した紙製パッケージに変更した背景にはどのような思いがあったのでしょうか。
山口様(シービック): 1999年に誕生したデオナチュレシリーズは、2000年代のはじめごろにプラスチック製のブリスターケースを導入したことで、売り上げやブランド力の向上につながった背景がありました。昨今、資源循環や環境への社会的関心が高まる中で、お客さまからの問い合わせやSNS上で「環境への配慮が気になる」といったご意見をいただくことも増えてきました。特に大きなきっかけになったのは、デオナチュレを愛用しているという中学3年生の女の子からいただいたメールです。そこには「外側のパッケージがかさばるし、環境のためにも改善してほしい」というメッセージが書かれていました。その率直な思いに突き動かされ、次世代のユーザーに選ばれ続けるブランドであるために、紙化プロジェクトを始動しました。
TOPPANとの協業を含め、プロジェクトチームはどのように形成されたのでしょうか。
山口様(シービック): マーケティング部門だけでは実現できないプロジェクトだったため、営業部や開発部、サプライチェーン部門を横断して進めていきました。キックオフとして、海洋プラスチック問題の現状を知るために、参加できるメンバーで荒川での清掃活動にも取り組みました。次々と出てくるゴミを目の当たりにし、私たちは少しでも環境に配慮したブランドにならなければ、という意識を再確認できました。その後、数社でコンペを実施した中で、最も心を掴まれたのがTOPPANさんのご提案でした。紙化すると中身の容器を見せるのが難しくなります。そうした中、ラウンド形状のフロントパネルに商品の原寸画像を印刷するという、私たちの求めることを先回りしたご提案をしていただいたのが決め手でした。
「商品が見えなくなる」という問題を含め、紙化に変更する過程ではどのような課題がありましたか。
山口様(シービック): 最大の課題は、店頭での視認性でした。ブリスターケースから紙化することで目立ちにくくなる可能性があります。また、長年親しまれてきたパッケージを変更するため、リピーターのお客さまにもしっかり商品を認識していただく必要がありました。
表様(シービック): 一方で、これまでのパッケージは重心が少し高いのでお客さまが触ったりする際に倒れてしまったり、シーズン外である秋冬に棚の下段のほうに配置されると陰って見づらかったりという課題があったんです。そうした点も改善していきたいという思いがありました。
山口様(シービック): 他にも、競合と差別化されたデザイン性、手作業での組み立てが必要なため作業効率を維持すること、輸送時の耐久性、バージン性(未開封性)の確保、これまで通り棚置きとフック置きの両方に対応して店頭展開しやすくすることなど、いくつかの課題をTOPPANさんと共有させていただきました。重視していたのは、単に紙製に変更するのではなく、10年100年先まで愛されるブランドとしてパッケージを「進化」させることでした。
こうした課題を受けて、TOPPANはどのような技術的・デザイン的アプローチで解決策を見出したのでしょうか。
飯塚(TOPPAN): いただいた課題を一つひとつ丁寧に乗り越えていったのですが、そのうえでTOPPANのエッセンスや技術を使ってどう付加価値を示せるか、という点を構造設計担当の佐藤が中心となって考えていきました。
佐藤(TOPPAN): 大枠の構造であるラウンド形状に関しては、「シリーズの統一感」と「店頭での安定性確保」を両立するものとして採用しました。もともとのブリスターケースは、同じサイズの外形の中に様々な大きさの商品が収まり、多様なラインナップの商品が店頭で横並びになった際の統一感が特徴でした。今回の紙製パッケージも、外見は同じ大きさなのですが、商品のサイズに合わせて中身の箱の大きさを変えているのが注目ポイントです。さらに、フロントパネルには商品の原寸画像を印刷し、光沢感を高めるUVハイグロス加工を施すことで、立体感と高級感を演出しています。加えて、ラウンド形状によって自立性が保たれ、平らなパッケージと比べても倒れにくいという利点があり、店頭での安定性という実用面でも優れた構造となっています。
飯塚(TOPPAN): サプライチェーン部門の津金さんのほうで何度か輸送テストを繰り返していただいている中で、底に傷が入ってしまったり、破れてしまったりといったフィードバックもありました。これに関しては底についた足を1本、2本、3本と試行錯誤を重ね、現在は足を1本にして底に円形の穴を設けることで耐久性を実現しています。
津金様(シービック): 輸送時の耐久性保持は難しい課題でしたが、何度も調整を重ねて、様々なパターンを提案していただいたことが心強かったです。
ラウンド形状が実現した環境配慮と売り上げ伸長
紙化プロジェクトを実施してから、どのような効果や変化を感じられていますか。
山口様(シービック): 紙製パッケージでの新生デオナチュレは2023年の秋ごろから徐々に店頭に出していたのですが、2024年は売り上げとしても大幅に伸長しました。特に、シリーズの中で一番最初に登場したアイテム「薬用クリスタルストーン C」はこれまで以上の販売数を記録し、社内でも話題になりました。プロモーションを強化したわけでもなく、パッケージを変えたこと以外に変えたことはないので、店頭で目立っていたというのが一番の要因なのではないかと思っています。売り場の方にも、ラウンド形状の部分が手に取りやすく、並べる際にも倒れにくいと好評です。
表様(シービック): フロントパネルの内側にも情報を記載できるようになったことも、紙化してよかった点です。これまでのブリスターケースは文字を入れるスペースが限られていました。とは言っても表面はわかりやすくするために情報量をかなり絞っているのですが、内側には「デオナチュレからのお便り」という形で担当者からのメッセージを載せ、ユーザーとの新しい接点を生み出すことができました。日々、ユーザーから感想のお手紙をいただくことも多く、弊社からも生の言葉を届けられることがうれしいですね。
商品包装の優秀性を評価する「JPC(ジャパンパッケージングコンペティション)」では、2024年に一般社団法人日本印刷産業連合会会長賞を受賞していますね。
佐藤(TOPPAN): 国内の代表的なパッケージアワードの一つなので、これを受賞することは社会的な評価にもつながっていると思います。環境配慮とユーザビリティの向上、どちらも諦めずに追求したシービック様の思いがこのような形で光を当てられたことに私たちも感動してしまいました。
津金様(シービック): 表彰式に出させてもらったのですが、細かい修正や調整を重ねてきたものが世に出て評価されたことは、とてもうれしかったですね。この受賞を糧に、今後も商品をより良いものにしていきたいと思います。
今後の展開についても伺いたいのですが、男性用デオナチュレシリーズの紙化も実現しているようですね。
山口様(シービック): 女性用の紙化に成功し、男性用にも着手しはじめたのが2023年秋のタイミングでした。男性用には女性用とは異なる店頭での課題がありましたが、紆余曲折を経てパッケージは完成し、この秋ごろから徐々に紙製へと切り替わっていきます。
西部(TOPPAN): 私は男性用デオナチュレシリーズの紙化の途中から関わらせていただいていますが、こちらも丁寧にテスト品を検証して、より良くなるよう改良が重ねられています。
山口様(シービック): 実は、新しいパッケージの商品を導入する方法についても環境への配慮を徹底しているんです。従来は、旧パッケージのものを返品で引き取って、新パッケージのものと入れ替えるのが基本。しかしそれでは物流のコストがかかりますし、廃棄品を出すと環境に負荷がかかってしまう。これに対して私たちは「自然切り替え」という方法を選び、旧パッケージを売り切りつつシーズンが過ぎた秋ごろから順次、新パッケージを置いていく方策をとっています。売り場を混乱させないために新旧のパッケージのサイズを変えないというミッションもあったのですが、これについてもTOPPANさんがしっかり応えてくれました。
この事例が業界全体に与える影響や、環境配慮パッケージのモデルケースとしての意義についてお聞かせください。
佐藤(TOPPAN): 社会的には環境配慮は「やらなきゃいけないもの」という認識がまだまだ強く、そうすることで店頭でのインパクトは弱くなってしまうかもしれないと二の足を踏んでいる企業様も多いと思うんです。しかし今回のように環境配慮とビジネス、ブランド力向上を同時に成り立たせることができると示せたのは大きな意味があると思います。この事例が、環境配慮とビジネス成長を両立できることを示すモデルケースとして、業界全体に新たな可能性を提示できれば幸いです。TOPPANは今後もパッケージの進化に伴走し、お客さまと共に持続可能な未来を創造していきます。