大きな瞳が印象的な少女が、じっとこちらを見つめているポスター。「ヒロシマ・アピールズ」とは、言葉を超えて「ヒロシマの心」を伝えるポスターキャンペーンです。毎年グラフィックデザイナー1名がポスターを制作し、国内外に広く頒布することで平和を希求しています。1983年の開始当初からずっとトッパンが継続して印刷に携わってきた案件で、数多くのグラフィックデザイナーとトッパンのプリンティングディレクター(以下PD)のコラボレーションで作品を作ってきました。
 シリーズ23作目となる2020年版のポスターを手掛けたのは、デザイナーの渡邉良重さん。今回は「ヒロシマ・アピールズ」2020のポスターと、その印刷設計を担当したPDの高本晃宏の想いをご紹介します。

CREATOR PROFILE

渡邉良重YOSHIE WATANABE

アートディレクター・デザイナー

1961年山口県生まれ。山口大学卒業。DRAFTを経て植原亮輔とともに2012年にKIGIを設立。
グラフィックデザインのほか「D-BROS」の商品企画、ほぼ日とファッションブランド「CACUMA」、滋賀県の伝統工芸職人とプロダクトブランド「KIKOF」を立ち上げるなど、プロダクトやファッションデザインも手掛ける。プライベートでも制作を行い、展覧会の開催や作品の発表をしている。東京・白金にてショップ&ギャラリー「OUR FAVOURITE SHOP」を運営。絵本「BROOCH」「UN DEUX」「ジャーニー」や作品集「キギ/KIGI」「KIGI_M」をリトルモアより刊行。東京ADCグランプリ、東京ADC会員賞、第19回亀倉雄策賞など受賞。

 モノクロで描かれた少女と赤の文字で構成された、一見シンプルにも見えるこちらのポスター。渡邉さんの原画は鉛筆で描かれており、今回は、鉛筆の特徴である「光源によって色が振れる、かすかなきらめき感」「重ねて描かれた部分のこってりとしたテカリ感」を表現することが印刷としての大きなポイントです。
 今回担当した高本は、グラフィックデザイナーの勝井三雄さんやイラストレーターの村田蓮爾さんなどの数多くの作品のプリンティングディレクションに携わり、毎回クリエイターのイメージに寄り添い、その腕で応えてきた印刷のプロフェッショナルです。

 印刷で鉛筆を再現する方法は本当にさまざまです。今回のポスターで高本が取り入れた手法は、スミの上にあえて銀インキを刷り重ねるというものでした。この設計でそのまま刷ってしまうと鉛筆の光沢感は豊かに表現できますが、黒の強さが弱まってしまうため、綿密に製版で作り込みを行いました。特に力強く描かれた目元の部分はこだわって細かな調整を繰り返し、少女のみずみずしい瞳の輝きを表現しています。
 最後に渡邉さんからの希望で四辺に滲むような赤の小口染めを施し、ポスターは完成しました。高本の真摯な設計が功を奏し、原画の魅力を最大限に引き出した力強い作品です。

PRODUCT INFORMATION

ヒロシマ・アピールズ2020
「いのち」

公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)広島地区
公益財団法人ヒロシマ平和創造基金
一般財団法人広島国際文化財団
ポスター/2020年

デザイン:渡邉良重
プリンティングディレクター:高本晃宏

STAFF’S COMMENTS

プリンティングディレクター 高本晃宏

少女に込められた思いを鉛筆画のタッチから感じられるように表現しようと考え、グラフィックトライアルで何度か試されていた銀インキを使った手法を応用することで、渡邉さん自身が描いた鉛筆画をリアルに再現しました。