通信販売を軌道に乗せていくには、新規顧客の獲得だけでなく“既存客とのつながりを維持すること”もマーケティングの大きな課題となります。そこで活躍するツールの一つが、お客さま向けの季刊誌や広報誌。ただし効果的である反面、制作体制の構築・管理や飽きないコンテンツ企画など、クリエイティブにおいては定期刊行物ならではの難しさも伴います。今回は、店頭販売に加え通信販売にも取り組んでいる化粧品メーカー株式会社CACの定期販促冊子を担当したディレクター、稲毛幸菜の「クリエイティブストーリー」をご紹介します。

メーカー事情に詳しい経歴と
“ものづくり愛”を強みに

 2018年にトッパンに入社した稲毛は、それまで住設メーカーでマーケティング企画やカタログ制作に従事していました。クライアント側であるメーカー勤務からクリエイティブを受注する側へと転職した大きな理由は、より幅広い分野のものづくりとコミュニケーションに携わってみたかったから。ものづくりへの強い興味とメーカー出身ならではの視点を活かし、プロダクトの背景にある開発過程や、企業の意思決定プロセスをも深く理解する。それは、ディレクターとしての稲毛の大きな強みになっています。

 今回取り上げる『CAC Letter』は、肌へのやさしさを追求し、お客さま一人ひとりに寄り添う化粧品ブランドCACが発刊している定期販促冊子です。もともと他社の広告代理店が制作されていましたが、2022年にコンペを経てトッパンが担当することに。稲毛はそのコンペの途中からチームに加わり、ツールの全体設計やチーム編成、運営、コスト管理などを担うことになりました。冊子リニューアルに向け、クライアントから強く出ていた要望は「お客さまとコミュニケーションをしっかりとっていきたい」という点。一方で冊子の中身については“アドバイスが欲しい”という、高い提案力が求められる案件でした。この難題に、稲毛はどのように応えていったのでしょうか。

『CAC Letter』2023年夏号

“体験”を軸に視野をひろげ、
課題に応える企画を考える

 「読み物としてのおもしろさを考える前に、まずは制作メンバーみんなが商品や市場を理解して同じ方向を向けるようにしたいなと思いました」

 制作のスタートをそう振り返る稲毛。クライアントやプロダクトの情報は資料からいくらでも知ることはできますが、稲毛がこだわるのは“自分で体験すること”です。クライアントから提供されたサンプル品を実際に使い、自分の肌で使用感を確かめる。実際に店舗に足を運んで接客を受け、お客さまがどういった流れで商品を手にするのか追体験する。協力会社のスタッフにはクライアント情報だけでなく化粧品業界全体についての動向も共有し、全員が最新の業界知識を持てるようにする。それらのプロセスを挟むことで、自分自身もクライアントやお客さまと同じくらい商品のファンになり、何より自信を持って伝えられるようになる——それは、あらゆるものづくりに関心と敬意を持つ稲毛の、制作における基本流儀ともいえるかもしれません。

今回のリニューアルでは冊子のタイトルとロゴデザインも一新。ブランドカラーでCACらしさを出しながら、幅広い層に受け入れられるジェンダーレスなデザインを目指した。商標登録が可能なフォントを使用し、管理・運用面にも配慮。ブランドや季刊誌の世界観、今後の期待感などを感じられるロゴが完成した。

 コンテンツの企画と制作においては、「年3回発刊から、年4回の季刊誌にする」というのが今回のもっとも大きな提案でした。これはいうまでもなく、年間の顧客接点を増やすため。しかし制作予算には限界があるので、その分ページ数を減らし、コンテンツの質は高めながらもコストと工数の負担を減らすさまざまな工夫を行いました。

 例えば、毎号単発で企画を考えるのではなく、編集会議で通年の企画を決定する。テーマに一貫性を持たせることでプランニングがスムーズになり、読者にも定期刊行物としての印象を持たせやすくなります。専門知識が求められるコンテンツについても、通年で同じ有識者に監修を依頼。費用を抑えながらもブランドの信頼性は決して落とさないようにしています。また、冊子後半にある商品情報の掲載パートは、社内のノウハウ豊富なカタログ専門チームに協力を依頼し、掲載内容が変わってもスムーズに対応できるカセット式のフォーマットを制作してもらいました。

 「CACさまはスキンケア商品の研究から製品開発まで一貫して自社で取り組んでいて、製品にこだわりを持っていらっしゃいます。限られた条件下でどうすればそのこだわりをお客さまに伝えられるか、時間をかけてヒアリングを重ね、丁寧に誌面に落とし込みました。トッパンの制作チームと担当者さまとの間で密にコミュニケーションをとり、今どんな段階にいて、いつまでに何をしなければならないのか、つねに伴走しながら制作を進めています。号を重ねるごとに進行がスムーズになっているので、安心していただけているのかな、と思います」(稲毛)

臨機応変に対応できるカセット式のフォーマットを作成した製品ページ。「年齢や性別に限らず、見やすい誌面づくりを意識しています」(稲毛)

1+1が2以上になる、そんな
チームをつくりたい!

 今回の案件でもメーカー出身ならではの稲毛の視点が活かされていましたが、案件を振り返るうちにもう一つ見えてきた強みがあります。それは「多様な視点を積極的に取り入れる」という姿勢です。

 「昔から人を巻き込むことが好きなんです、相手は迷惑と思っているかもしれませんが(笑)。一人でやっているとどうしても視野が狭くなるので、自分以外の人の反応や考え方を知りたくてそうしています。かしこまって質問するというより、ランチのついでにちょっと相談してみたり、企画や制作物への感想をもらったり。いろんな角度からの視点を取り入れることで、1+1が2以上のものになるようなチームづくりやクリエイティブをしていきたいといつも思っています」(稲毛)

 クリエイティブにおいては「どんなものをつくるか」に注目しがちですが、実は「どんな人と、どんな環境でつくるか」もまた、非常に大切なことです。体制構築や意識合わせを得意とする稲毛の活躍は、今後も気持ちの良いチームワークと成果物を生み出していくでしょう。

PRODUCT INFORMATION

CAC化粧品販促ツール「CAC Letter」
株式会社CAC
カタログ冊子/2022年

ディレクション(全体進行管理):稲毛幸菜
ディレクション(制作):佐藤紀久子

STAFF’S COMMENTS

ディレクター 稲毛幸菜

“ものづくり”につまっているいろいろな物語、情感。お話をお聞きするごとに、まるで映画のように映像が流れてきます。CACさまの製品の良さや社員さまの想い、そして多くのコミュニケーションツールのなかから紙媒体を選択してくださったそのセンスにも応えたいと模索を続けてまいりました。今後は反響などもお伺いしつつ、これからもチームの一員として、より進化したクリエイティブに携わっていけましたらうれしく思います。