2022.10.24

今、求められる脱炭素への取り組み

自治体や民間企業が脱炭素の取り組みを強化しています。その裏には、単に脱炭素化を実現するだけでなく、地域経済の発展や企業の成長戦略につなげようとの狙いがあるのです。
また自治体独自・民間企業独自での取り組みはもちろん、「公民連携」によって脱炭素化の実現を目指している自治体もあります。脱炭素化を実現するために、今どのような取り組みが自治体・民間企業には求められているのか。先行事例をチェックしながら、考察していきましょう。

脱炭素の取り組みの背景

今、求められる脱炭素への取り組み

世界や日本で、脱炭素の取り組みが広がった今日までの軌跡を確認しましょう。

脱炭素が世界のトレンドになるまで

脱炭素の取り組みは、気候変動に対する下記のような取り決めに基づいて世界中に広がりました。

■1992年5月「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」
大気における二酸化炭素(CO2)やメタンなど「温室効果ガス」の濃度安定化を目的とし、197か国・機関によって締約、1994年3月より発効された条約です。本条約に基づき、「気候変動枠組条約締約国会議(COP)」が1995年から毎年開催されています。

■1997年12月「京都議定書」
UNFCCCの附属書I国(温室効果ガス削減目標に言及のある、先進国および市場経済移行国)に対し、一定期間における温室効果ガス排出量の削減義務が課されました。京都府で開催されたCOP3で採択され、2005年2月に発効されています。締約したのは192か国・機関です。

■2015年12月「パリ協定」
パリで行われたCOP21で採択され、2016年11月に発効された枠組みです。先進国と途上国の区別なく、すべての国が温室効果ガス排出削減などの気候変動の取り組みに参加する取り決めがなされました。締結国だけで、世界の温室効果ガス排出量の約86%、159か国・地域をカバーできる計算です(2017年8月時点)。

■2018年10月「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」「IPCC1.5℃特別報告書」
IPCCは、世界気象機関(WMO)および国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織です。各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的とし、定期的に報告書を作成しています。2018年に公表された「IPCC1.5℃特別報告書」で、産業革命以降の温度上昇を1.5℃以内に抑えるという努力目標を達成するには、2050年近辺までのカーボンニュートラルが必要と報告されました。

日本における脱炭素の取り組みの背景

2050年には温室効果ガスの排出実質0を日本は実現しようとしています。2020年10月に、当時内閣総理大臣であった菅義偉氏から「2050年カーボンニュートラル宣言」が発表されたのを覚えている人も多いのではないでしょうか。その宣言を旗印に、脱炭素の取り組みが加速し、持続可能な経済成長や新たな雇用創出への発展が目指されるようになりました。

そののち2021年4月には、2030年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013年度(14億1,000万トン)から46%削減を目指すことが掲げられます。そこから2018年には12億4,700万トンまで削減が進んだものの、それでも東京ドーム約1,000個分に水を入れた容量の重さに相当するほどの量です。

国や省庁の取り組み

今、求められる脱炭素への取り組み

「2050年カーボンニュートラル宣言」のとおり、温室効果ガスの排出量を全体で0にするには、下記のような取り組みが必要といわれています。日本国内では具体的にどのような取り組みが行われているのか、まずは国や省庁の事例をチェックしましょう。

(1)エネルギー関連でCO2を排出しない風力・太陽光・地熱 エネルギーなどの再生可能エネルギーや水素エネルギーに切り替える。
(2)CO2の排出量の占める割合が大きい鉄鋼・化学工業などの分野でCO2削減を図る。
(3)航空・船舶・自動車などでCO2を排出しない代替燃料に切り替える。
(4)住宅・建築物でのCO2削減を図る。
(5)家庭・オフィスでのリサイクル活動に取り組む。

予算の規模や支援が受けられる事業

取り組みを進めるには費用がかかります。たとえば環境省の場合、来年2023年度予算として、総額7,414億円の概算要求を行いました。中でも脱炭素に取り組む自治体などに対する「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」は、400億円ほど計上しています。今年2022年度の当初予算の倍にあたる金額です。予算が成立したのち、下記のような事業の支援(交付金や補助金による支給)が行われます。

【環境省から脱炭素関連で、支援が受けられる事業および支給がある主な交付金や補助金(2022年度~2023年度)】

<2022年度>
・工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業
・脱炭素社会の構築に向けたESGリース促進事業
・グリーンリカバリーの実現に向けた中小企業等のCO2削減比例型設備導入支援事業
・建築物等の脱炭素化・レジリエンス強化促進事業
・PPA活用等による地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業
・二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(脱炭素社会構築に向けた再エネ等由来水素活用推進事業)
・災害時の強靭性向上に資する天然ガス利用設備導入支援事業費補助金
・災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金
・脱炭素移行促進に向けた二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業(プロジェクト補助)
・脱フロン・低炭素社会の早期実現のための省エネ型自然冷媒機器導入加速化事業
・脱炭素社会構築のための資源循環高度化設備導入促進事業

<2023年度(新)>
・株式会社脱炭素化支援機構と連携した地域脱炭素投融資促進事業
・サプライチェーン全体での企業の脱炭経営普及・高度化事業
・コールドチェーンを支える冷凍冷蔵機器の脱フロン・脱炭素化推進事業
・グリーンファイナンス拡大に向けた市場基盤整備支援事業
・脱炭素型循環経済システム構築促進事業
・プラスチック資源・金属資源等のバリューチェーン脱炭素化のための高度化設備導入等促進事業
・脱炭素型循環経済システム構築促進事業

政府全体の取り組み

政府としては下記のような取り組みを行っています。

■グリーン成長戦略
全体の取り組みとして「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が進められています。経済産業省が中心となり、「脱炭素化」×「経済再生」による好循環を生むことを目指した取り組みです。この戦略によって2050年には約290兆円の経済効果および約1,800万人の雇用効果が生まれると試算されています。

【グリーン成長戦略で成長が期待される14の産業分野(およびそれぞれの目標)】

●エネルギー関連産業
(1)洋上風力・太陽光・地熱産業: 2040年、3,000万~4,500万kWの案件形成[洋上風力]。2030年、次世代型で14円/kWhを視野[太陽光]
(2)水素・燃料アンモニア産業: 2050年、2,000万トン程度の導入[水素]。東南アジアの5,000億円市場[燃料アンモニア]
(3)次世代熱エネルギー産業:2050年、既存インフラに合成メタンを90%注入
(4)原子力産業:2030年、高温ガス炉のカーボンフリー水素製造技術を確立

●輸送・製造関連産業
(5)自動車・蓄電池産業:2035年、乗用車の新車販売で電動車100%
(6)半導体・情報通信産業:2040年、半導体および情報通信産業のカーボンニュートラル化
(7)船舶産業:2028年よりも前倒しでゼロエミッション船の商業運航実現
(8)物流・人流・土木インフラ産業:2050年、カーボンニュートラルポートによる港湾や、建設施工等における脱炭素化を実現
(9)食料・農林水産業:2050年、農林水産業における化石燃料起源のCO2ゼロエミッション化を実現
(10)航空機産業:2030年以降、電池などのコア技術を、段階的に技術搭載
(11)カーボンリサイクル・ マテリアル産業:2050年、人工光合成プラを既製品並み[CR]。ゼロカーボンスチールを実現[マテリアル]

●家庭・住宅関連産業
(12)住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業:2030年、新築住宅・建築物の平均でZEH・ZEB[住宅・建築物]
(13)資源循環関連産業:2030年、バイオマスプラスチックを約200万トン導入
(14)ライフスタイル関連産業:2050年、カーボンニュートラル、かつレジリエントで快適なくらし

■GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ基本構想
カーボンニュートラルを成長の機会と捉え、企業群が経済社会システム全体の変革(GX:グリーントランスフォーメーション)をリードしていくことが重要です。GXに積極的に取り組む企業群が、GXの議論と新たな市場創造のための実践を行う場として「GXリーグ」が設立されました。

各省の取り組み

各省でも下記のような取り組みが実施されています。

■環境省
脱炭素はもちろん、地域の経済活性化・課題解決を図るための取り組みを2030年までに集中的に実施するうえでの工程や具体策が「地域脱炭素ロードマップ」として示されています。また地域の集中的な取り組みを全国に伝播させる「脱炭素ドミノ」によって、2050年ではなく、2030年での脱炭素化達成を視野に入れた方針も示されました。具体的には、最低でも100か所の「脱炭素先行地域」の選定、省エネ住宅や電気自動車などの対策、脱炭素化支援機構の設立などが進んでいるところです。

■総務省
バイオマスや廃棄物などの地域資源を活用した地域エネルギー事業を立ち上げ、地域経済の循環を創造しようとする試みを「エネルギー供給事業導入計画(マスタープラン)」と呼びます。マスタープランの策定を支援するほか、人材支援や研修の実施などを総務省が主導しています。

■国土交通省
国土交通省は、以下の6つのプロジェクトに重点的に取り組み、グリーン社会の実現を目指しています。
・省エネ・再エネ拡大等につながるスマートで強靱なくらしとまちづくり
・グリーンインフラを活用した自然共生地域づくり
・自動車の電動化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築
・デジタルとグリーンによる持続可能な交通・物流サービスの展開
・港湾・海事分野におけるカーボンニュートラルの実現、グリーン化の推進
・インフラのライフサイクル全体でのカーボンニュートラル、循環型社会の実現

■文部科学省
大学や国立研究開発法人などとともに、研究開発の分野における取り組みを文部科学省が主導しています。具体的には、2023年度予算の概算要求で原子力分野における「高温ガス炉や核燃料サイクルに係る革新的な研究開発」に235億1700万円を要求しました。2022年度予算が94億4400万円を計上していた点から、2倍を超える要求となったのがわかります。原子力関連の技術開発全体での要求額は1,826億円で、前年度予算(1,470億円)よりも400億円ほどの増額になり、安全性が高いとされる高温工学試験研究炉(HTTR)の技術開発などが進んでいるところです。

■農林水産省
脱炭素の実現にくわえ、地域の活力創造・防災機能強化や農林水産業の競争力強化を図るビジョンが示されています。農山漁村における再生可能エネルギーのフル活用および生産プロセスの脱炭素化、農地・畜産からの排出削減対策の推進、温室効果ガスの削減量の“見える化”、バイオマス資源のフル活用などの取り組みが進んでいるところです。

脱炭素における公民の取り組み事例

今、求められる脱炭素への取り組み

脱炭素の取り組みは、自治体だけで進められているわけではありません。「公民連携(PPP:Public Private Partnership)」によって民間企業と協業しながら脱炭素を進めている自治体もあります。また中には独自で取り組みを進めている企業も増えてきました。それぞれの事例を紹介します。

公民連携の取り組み

公民連携によって、民間の創意工夫などを活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化などが実現します。さまざまな状況や課題に対応するため、その地域の実情にあわせた公民連携事業が全国で検討・実施されるようになりました。実際の取り組み事例を3つ紹介します。

■大阪府
「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」の名の下、企業や大学などと連携しながら“大阪モデル”によるスマートシティの実現を大阪府は目指して取り組みを行っています。具体的には、社会課題の見える化を進め、見えてきた課題解決のソリューションを持つ企業と自治体・他企業をつなぐコーディネートや、データ活用・社会課題・テクノロジーなどをテーマにしたワークショップおよびセミナーの開催などが取り組みとして実施されてきました。

■みなとみらい21地区(横浜市)
横浜市と一般社団法人横浜みなとみらい21は、「環境先進都市」の構築をすべく公民連携で事業を進めています。「ヨコハマSDGsデザインセンター」の設立・運営およびデザインセンターと金融機関の連携によるSDGs認証制度「Y-SDGs」の運用、市有施設への再生可能エネルギーの導入、EV充電器の公道設置に関する実証実験などが実施されました。

■安城市(愛知県)
「ウェルビーイングな脱炭素社会実現プロジェクト」と題し、「おかねが地域で生まれ、まわるまち」「人が参加し、支え合うまち」「資源・エネルギーが循環するまち」を2030年のあるべき姿と安城市では想定しています。「あんじょうSDGs共創パートナー制度」を運用し、企業だけでなく学生団体を巻き込んだ取り組みも実施されました。

自治体の取り組み

自治体独自での取り組みも進んでいます。2021年3月18日時点で、2050年までにCO2排出実質0を329の自治体が表明しました。2019年9月時点で4自治体、2020年10月時点で166自治体だったのを鑑みると、自治体の積極的な姿勢がうかがえます。実際の取り組み事例も下にまとめましたので、参考にしてください。

■東京都
「ゼロエミッション東京戦略」を掲げ、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させる「カーボンハーフ」の実現に動いています。再エネ利用を前提とした都市づくり、水素エネルギー社会実装、新築時でのゼロエミッションビルの標準化など多くの取り組みが進められている最中です。ほかにも電力を減らす(H)・創る(T)・蓄める(T)ための工夫として、以下の「HTT」の工夫を推奨する活動もしています。

今、求められる脱炭素への取り組み

【電力をHTTする9つの工夫】
H・冷房時の室温は28℃を目安に
H・エアコンのフィルターをこまめに掃除
H・夏は冷蔵庫の庫内温度を「強」から「中」に
H・冬以外は便座の暖房、温水洗浄の温度設定を切る
H・省エネルギー性能が高い家電等に買い替え
H・複層ガラスなど高断熱の窓に改修
H・節水型シャワーヘッドへ交換
H・電気の契約アンペアを見直し
TT・自宅に太陽光発電と蓄電池の導入を検討

■横浜市
「Zero Carbon Yokohama」をゴールとする、「持続可能な大都市モデルが実現するまち」にする取り組みを横浜市は進めています。家庭および事業者への省エネ支援をするのはもちろん、再エネ資源が豊富な東北の自治体と連携して、再エネ電力の共同購入による電気代を東北に還元する試みを行っているのが特徴的です。

■神奈川県
脱炭素の取り組みは横浜市以外の自治体でも盛んです。小田原市は、再エネを活用して電気自動車のシェアリング事業を進め、災害時での避難所への派遣などを可能にしました。また相模原市では、「地球温暖化対策計画書制度」「省エネアドバイザー派遣事業」「中小規模事業者省エネルギー設備等導入支援補助金」によって中小規模事業者の脱炭素化を総合的にサポートしています。

■京都市
COP3が開催されて京都議定書が採択された京都では、「1.5℃を目指す京都アピール」や「プロジェクト“0”への道」などが発表されています。太陽光発電設備が初期費用ゼロで設置できる「0円ソーラー」の事業者と府民をマッチングする「京都0円ソーラープラットフォーム」を京都市が運用しているのは珍しい事例かもしれません。

■長野県
長野県は、「長野県ゼロカーボン戦略」などを示して脱炭素に取り組んでいます。もともと長野県は日射量や冷涼な気候に恵まれ太陽光発電に適した地域と言われ、屋根ソーラーの普及に力を入れています。「信州屋根ソーラーポテンシャルマップ」を公開し、太陽光発電にどの程度建物が適しているかを確認しやすくする工夫もなされました。

民間企業の取り組み

脱炭素の取り組みをしている民間企業も多くあります。下記のような取り組みを行う企業が増えている状況です。

●RE100(事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする協働イニシアチブ)への加盟
●TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の賛同表明
●CDP(環境分野に取り組む国際NGO)の対応 (CO2削減量の見える化)
●SBT(パリ協定が求める水準に整合する、企業における温室効果ガス排出削減目標)の認証取得

また環境に関連するキーワードが使われる機会も増えてきました。下記は企業の経営でも重視されるキーワードと言えるでしょう。

●CSR(Corporate Social Responsibility):コンプライアンスの遵守、環境問題や人権への配慮、地域社会との共存などの「企業が果たすべき社会的責任」のこと
●SDGs(Sustainable Development Goals):「持続可能な開発目標」。「貧困をなくそう」や「気候変動に具体的な対策を」など、人間が地球で暮らし続けていくために2030年までに達成すべきだと言われる17個の目標の総称
●ESG投資:従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンスも考慮した投資のこと
●脱炭素経営:脱炭素の考え方をもとに、経営戦略や事業方針を企業が策定すること

民間企業の取り組み事例を、環境省の取材に対して経営者自らがメッセージを発しているケースを中心にご紹介します。世界的な脱炭素化の潮流に乗り、なおかつパイオニアとしての差別化・ブランディングを成功させて、各社とも新たなビジネスチャンスの創出を目指しています。

■小野薬品工業
設備更新時に省エネ性能の高い「トップランナー機器」を採用するほか、太陽光発電の導入および水力発電由来の電力を使用して再エネの導入にも積極的です。

■花王
ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)を2019年4月に策定し、重点テーマを設定しながら取り組みを続けています。CDPが実施する調査で「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に5年連続で選定されました(2022年2月10日時点)。

■アスクル
サプライチェーン全体でCO2を削減するエコプラットフォームの構築を進めています。また使用する電力を2030年までに再エネに100%転換することや、すべての配送車両のEV化が目標として掲げられました。

■富士フイルムホールディングス
生産プロセスを1990年代から見直し、エネルギー利用効率を高める活動が続けられてきました。世界中の事業所ごとで再エネの導入機会を探索し、地域のポテンシャルを踏まえた戦略的な導入が進んでいます。

■キリンホールディングス
ビール製造の加熱工程にヒートポンプの導入を進めたり、化石燃料から電力にシフトしたりしたほか、持続可能な紅茶葉の調達にも積極的です。

■滋賀銀行
電力会社が発行したグリーンボンド(環境改善活動の資金調達を目的に発行される債券)を引き受け、地域の太陽光パネル設置や小学校のLED化に貢献しています。取引先のCO2削減などの目標達成具合に応じて融資条件が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」を、地方銀行で初めて取り扱い始めたのも滋賀銀行です。

■戸田建設
建設業界で初めてSBTの認証を受けた企業です。また浮体式洋上風力発電を国内で初めて商用化し、国内の事業会社で初のグリーンボンド発行を行った実績もあります。建設現場におけるCO2の削減および再エネへの切り替えにも積極的です。

なぜ自治体や民間企業は脱炭素化に取り組むのか

今、求められる脱炭素への取り組み

紹介してきたとおり、多くの自治体が積極的に脱炭素の実現に向けて取り組んでいます。その理由として、地域の経済活性化・課題解決を図っている面があると紹介しました。くわえて、行政コストの割に比較的手堅く地域が収益を確保できるメリットも大きいでしょう。

たとえば太陽光発電5,000kW(5kW/世帯としたときの1,000世帯分)を導入した場合、地域住民や企業に年間最大で約1.8億円の経済波及効果があると試算されています。空き家対策なら188人の移住者増加、観光振興なら18,880人の観光客増加に相当する経済波及効果です。自治体の担当者であれば、空き家対策や観光振興で換算した数字がどれほど大きいか実感できるのではないでしょうか。

脱炭素化を成功させるためには、CO2削減量の可視化や取り組みに関する情報発信が重要になってくると考えられます。今回紹介した先行事例でも、目標の掲出およびその情報発信があったからこそ本記事がまとめられたわけです。取り組みの認知促進や普及定着を図るための広報・プロモーション活動を、トッパンもサポートしています。

また民間企業の場合は、自治体と同じく目標設定や情報発信はもちろん、CO2削減の技術開発および仕組みづくりを行うのが脱炭素を企業の成長につなげる糸口になるでしょう。今回紹介したように、交付金や補助金の交付を受けて研究開発を進めるだけでなく、脱炭素を効率的に進めるために自治体との共創も期待できるからです。

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