2023.10.2

鳥取県立バリアフリー美術館が実現する「誰一人取り残さない鑑賞体験」

2023年6月30日(金)に東京ビッグサイトで行われた「自治体・公共Week2023」で、TOPPAN株式会社はブース出展およびセミナー開催を実施しました。

鳥取県で障がい者支援をされている倉本 義隆氏をゲストに迎え、鳥取県が取り組む障がい者支援や、2023年2月に設立された鳥取県立バリアフリー美術館の設立の背景や特徴について、TOPPAN株式会社の藤井 弥と対談した内容をレポートします。

今回ご紹介する事例は、こちらのページで詳しくご覧いただけます。

鳥取県はどんな県?

鳥取県はどんな県?

鳥取県福祉健康部ささえあい福祉局 障がい福祉課社会参加推進室
障がい者アート支援担当 課長補佐 倉本義隆 氏

倉本:鳥取県の県庁所在地は鳥取市です。人口は全都道府県の中で最小の54万人。よく知られているのは日本一の砂丘「鳥取砂丘」と、県知事の「平井伸治」かと思います。

平井は鳥取県にスターバックスがなかったころ、「スタバはないけど、日本一のスナバ(砂場)はある」という言葉で注目を集めました。

藤井:知事は障がい者支援に対して積極的に取り組まれており、「手話を広める知事の会」の会長もつとめていらっしゃいますよね。

そんな鳥取県には魅力にあふれるさまざまな観光地も存在します。

倉本:はい。鳥取砂丘には、じつは砂を題材とした世界初の美術館があります。砂で作られた展示品はすべて期間限定。期間が終われば砂が崩され、新たな展示作品がその砂から作られます。

また「鳥取十温泉」と呼ばれるさまざまな効能がある温泉群や、日本初のラブストーリーの発祥地である「因幡・白兎海岸」なども有名です。

鳥取県が取り組む障がい者支援

鳥取県が取り組む障がい者支援

TOPPAN株式会社 中四国事業部 企画販促本部
販売促進部 情報系BI販促広島チーム課長 藤井 弥

鳥取県は県知事だけでなく、県全体で障がい者支援に積極的に取り組まれています。鳥取県が障がい者支援に取り組む理由や、取り組み事例について解説します。

鳥取県が障がい者支援に取り組む理由

倉本:鳥取県が障がい者支援に積極的に取り組んでいる理由には、糸賀一雄さんの存在があります。

糸賀一雄 著『この子らを世の光に : 近江学園二十年の願い』

糸賀一雄 著『この子らを世の光に : 近江学園二十年の願い』

倉本:糸賀一雄さんは鳥取県出身で、戦後の障がい者福祉の発展に生涯を捧げ、「社会福祉の父」と呼ばれている人物です。彼は「この子らを世の光に」という言葉を残しました。

「この子ら」とは、知的障がい児のことを指し、彼ら一人ひとりが「世の光」であり、生命のみずみずしさを気づかせてくれる障がい者福祉の根幹の発想になります。

鳥取県ではこの言葉を背景にして、障がい者支援施策を積極的に展開しています。

実際の取り組み事例

倉本:鳥取県では障がい者がいきいきと暮らしていけるように、さまざまな取り組みを行っています。

例えば、全国の自治体が実施している、障がいを理解し、障がい者に対する配慮や手助けを実践する「あいサポート運動」は、鳥取県が始めたものです。

また、鳥取県は障がい者福祉の領域だけではなく、情報アクセス・コミュニケーション支援、教育など、あらゆる分野で障がい者の地域生活を支援する「鳥取県障がい者プラン」も策定しています。以下はその取り組みの例です。

●鳥取県立バリアフリー美術館
●障がい者クリエイターの支援
●日本博を契機とした 文化芸術フェスティバル in中国四国ブロック
●鳥取県 じゆう劇場
●鳥取県障がい者舞台芸術祭 あいサポート・アートとっとり祭
●全国高校生手話パフォーマンス甲子園

この中でも「鳥取県立バリアフリー美術館」は、障がい者支援の一環としてTOPPANも支援させていただきながら、2023年2月28日に設立されました。

“鳥取県立バリアフリー美術館”とは?

鳥取県立バリアフリー美術館は、2023年2月28日(火)にグランドオープンした、障がいのあるアーティストの作品に特化したオンライン上の美術館です。

鳥取県立バリアフリー美術館の特徴

<特徴1:全国初の障がい者アートに特化した県立のオンライン360度バーチャル美術館>

全国初の障がい者アートに特化した県立のオンライン360度バーチャル美術館

実際の鳥取県立バリアフリー美術館の画面

倉本:鳥取県立バリアフリー美術館は、全国初の障がい者アートに特化した県立のオンライン360度バーチャル美術館です。インターネット環境があれば、美術館に展示されている作品をいつでもどこでも鑑賞することができます。

美術館のページに入ると、360度周りを見渡したり、移動したりすることが可能です。現実に美術館を訪れているような臨場感があります。

全国初の障がい者アートに特化した県立のオンライン360度バーチャル美術館

鳥取県立バリアフリー美術館のオープンにあたり、オープニングセレモニーをメタバース空間上で行いました。この画像は鳥取県の平井伸治知事がメタバース上で会見を行った際の画像です。

TOPPANが開発した、スマホで利用できるメタバースプラットフォーム「メタパ」に特設会場を設けて開催しています。


<特徴2:障がい特性に対応したバリアフリー>

全国初の障がい者アートに特化した県立のオンライン360度バーチャル美術館

倉本:博物館ページには作品の手話翻訳や、音声読み上げ、色調変更などの機能が備えられており、それぞれの障がい特性をに合わせて鑑賞を楽しめるように設計されています。特に手話翻訳機能は鳥取県の聴覚障害者協会にご協力をいただき作成しており、好評をいただいています。

障がいのある方の作品は、障がいがあるというだけで見向きもされず、埋もれてしまっている作品が多いです。そのため、鳥取県立バリアフリー美術館の設立にあたり、「作品のバリアフリー」化の取り組みも行っています。

具体的には、鳥取県内の福祉施設や個人宅をまわり、優れた障がい者アートを発掘します。その後、その作品のデジタルアーカイブ化を行い、作品の販売や商品デザインへの採用を行うことで、収益化を行い、障がい者アーティストの方に還元します。このように、障がい者のアート活動が正当に評価される支援活動を行っています。


<特徴3:鳥取県内の優れた障がい者アーティストの作品の展示>

鳥取県立バリアフリー美術館の展示作品は、鳥取県内の優れた障がい者アーティストの作品です。受賞作品を含め、多くの作品を鳥取県内の福祉施設と協力して収集しています。その後、高精度の撮影によるデジタルデータ化や写真計測による3Dデータ化をして、展示しています。

3Dデータ化された作品は、拡大や回転などを自由に行うことができます。現実の美術館を訪れている際には見ることができなかった作品の裏側や、作品に書かれている小さな文字などを見ることができるので、デジタル技術を通した作品の新しい楽しみ方が可能になっています。

設立の背景

鳥取県立バリアフリー美術館の設立には、近年施行された障がい者支援に関する法律と、TOPPANが推し進めている障がい者アートに関するプロジェクトが大きく寄与しています。

「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立

倉本:鳥取県が鳥取県立バリアフリー美術館を設立した背景の一つに、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の施行があります。 この法律はすべての障がい者があらゆる情報を取得、活用し、社会、経済、文化などあらゆる活動に参加できるようにするための基本方針を定めた法律で、2022年に施行されました。すべての国民が障がいの有無で左右されず、相互尊重しながら暮らしていける社会の実現に貢献することが目的です。 鳥取県は「障がい者の情報アクセス先進県」を目指しています。文化や芸術などの情報も公平に届けられるように取り組む必要があると考え、それがオンラインで障がい者の作品を鑑賞できる美術館の設立の理由の一つになりました。

TOPPANによる障がい者支援事業「可能性アートプロジェクト」の推進

倉本:もう一つの理由は、TOPPANが取り組んでいる障がい者支援事業「可能性アートプロジェクト」の推進にあります。

藤井:「可能性アートプロジェクト」とは、「障がい者の自立支援」「企業の事業活動」「人財開発」を組み合わせ、TOPPANが2018年から展開しているプロジェクトです。

具体的な目的としては、TOPPANが持つデータ処理技術を活用し、障がいのあるアーティストの作品を付加価値化することを通して、社会的課題解決(障がい者の自立)と経済的事業活動が両立するビジネスモデルを構築することを目指しています。

可能性アート®︎の作品例

可能性アート®︎の作品例

リアルとデジタル両方の領域で展開を行っており、リアル領域では企業様の社屋での常設展示やライセンス商品の販売を行っています。一方、デジタル領域では、メタバースでの展示会やNFTアートを販売しています。

倉本:鳥取県ではデジタル技術を活用したプロジェクトの事例がありませんでしたが、メタバースやVR、AR等の技術、そして障がい者アートの実績を持つTOPPANと協力することで、鳥取県立バリアフリー美術館の設立に繋げられました。

これからの鳥取県立バリアフリー美術館

これからの鳥取県立バリアフリー美術館

鳥取県では今後も障がい者アーティストの支援を行いながら、鳥取県立バリアフリー美術館の充実を図っていきます。

アーカイブ作品の充実

倉本:鳥取県立バリアフリー美術館の設立にあたり、鳥取県は多くの福祉施設や個人のアーティストを訪問し、作品の選定、調査を行いました。

しかし、コロナ禍の影響もあり、まだまだ伺えていない施設が多くあります。今後はより多くの施設や個人を訪問し、多くの障がい者の作品を展示しようと考えています。

また、アーカイブ作品のバリアフリー機能についても、全盲の方も鑑賞できる機能にはなっていないので、障がいの当事者団体との意見交換を進めながら機能の充実を図っていきます。

作品データの商用利用の推進

倉本:鳥取県立バリアフリー美術館の設立の背景には、障がい者のアーティストが活躍できる舞台を増やしていく取り組みもありました。今後もアーティストの方たちが活躍できる場を広げる活動を続けていきます。

特に、デジタルデータを商標利用することが必要になってくると考えられます。データを商標利用するためには、デジタルデータの独自性が保護されるNFT技術の活用が必要になってくるでしょう。

デジタルデータ利用推進の流れの中で事業化されたプロジェクトの例として、「山陰ご当地フォントプロジェクト」があります。このプロジェクトは、障がい者のアーティストと山陰のデザイナーが協力してフォントとパターンを制作し、利益を障がい者に還元するというプロジェクトです。

このように、障がい者が社会活動に参加できるようなプロジェクトも展開しています。

まとめ

鳥取県は障がい者支援の先進県として、さまざまな障がい者支援活動を展開してきました。

今回紹介した鳥取県立バリアフリー美術館では、障がい者アーティストの作品の展示、デジタル技術による鑑賞のバリアフリー化などを通して、「誰一人取り残さない鑑賞体験」の実現を目指しています。

今後も鳥取県立バリアフリー美術館をはじめとする、障がい者が社会活動に参加できるようなプロジェクトで、障がい者がいきいきと輝ける社会の実現に取り組まれていくでしょう。

TOPPANでも「可能性アートプロジェクト」を通して、障がい者アーティストの支援を行っています。TOPPANが持つデジタル技術を通して、アート作品の活用、収益化によるアーティストへの利益還元を実現し、今後も障がいのあるアーティストの支援を続けてまいります。

今回ご紹介した事例は、下記リンクから詳しくご覧いただけます。

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