2025.06.27
文化観光とは?文化資源を活かした持続可能な観光戦略
文化観光の推進は、地域の魅力発信や文化体験による学びと感動の提供、地域活性化など多くの利点があります。本記事では、文化観光の基本的な考え方やメリット、進め方、実践事例をご紹介します。

【この記事で分かること】
・文化観光とは何か
・文化観光の取り組み方や課題
・文化観光の取り組み事例
文化観光とは?
文化観光推進法によると、文化観光は次のように定義されています。
有形又は無形の文化的所産その他の文化に関する資源(以下「文化資源」という。)の観覧、文化資源に関する体験活動その他の活動を通じて文化についての理解を深めることを目的とする観光
引用元:文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律 | e-Gov 法令検索
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つまり、文化観光とは、有形・無形の文化財をはじめとするさまざまな文化的資源に触れ、その魅力を楽しみながら学ぶ観光のことです。
従来の観光が主に消費や娯楽を目的としているのに対し、文化観光は地域の文化的魅力を伝えることに重点を置き、観光と文化が連携することで地域の魅力や価値を高めることを目指しています。
観光と文化の一体的な取り組みは、地域全体の活性化にもつながるとし、全国的な文化観光の推進を目的とした、「文化観光推進法」が2020年に施行されました。文化観光の拠点施設を中心とした、計画的な整備や利活用を支援しています。
文化観光を推進するメリット

文化観光の推進は、観光による経済的効果と文化の継承・発展を同時に実現できる取り組みとして注目を集めています。文化資源の保護や活用が観光振興につながり、それが地域経済の活性化をもたらすためです。そして経済が活発になれば、それが文化の振興へと再投資されます。
この好循環が完成する過程で得られるメリットを詳しく紹介します。
地域の文化資源の保護と活用
文化観光の対象となるのは、「文化観光拠点施設」です。文化観光拠点施設とは、文化資源の保存・活用を行う博物館や美術館、社寺、城郭等を指します。
・参考:観光拠点とは?地域資源を活かす観光拠点整備と文化体験の新潮流|コラム|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
文化観光拠点施設が中心となって、観光資源として文化財を見直し、適切に管理・整備することで、文化の価値が再認識され、次世代への継承が促進されることがメリットの一つです。
また、体験型プログラムや展示、イベントなどを通じて、訪問者が地域の文化に直接触れられる機会を増やすことで、文化資源の経済的価値も高まり、保護のための財源確保にもつながります。
地域の魅力向上
地域に根ざした観光資源を掘り起こし、文化的な独自性を活かして磨き上げることは、他の地域との差別化につながります。さらに、文化観光を通じて訪れた人々がその土地ならではの魅力に触れることで、観光満足度が高まり、リピーターや口コミによる新たな来訪者の増加にも貢献するでしょう。
また、地域の文化に誇りや愛着を持つ住民が増えることで、住民参加型の観光づくりが進み、より魅力的な地域づくりが可能になるメリットもあります。
地域経済の活性化
文化観光によって観光客が地域を訪れることで、宿泊・飲食・交通・物販といったさまざまな波及効果が生まれ、地域経済の活性化が進みます。
文化施設や体験プログラムへの参加者が増えることで、関連産業の雇用創出や事業の拡大にもつながるでしょう。さらに、観光による収益を、文化資源の保全や新たな観光コンテンツの開発に再投資することで、持続可能な地域発展が期待されます。
文化観光の推し進め方
文化観光を効果的に推し進めるには、計画的な施策と地域全体での連携が不可欠です。ここでは、文化庁の「文化観光推進ガイドブック」の内容をもとに、文化資源の活用や魅力的な観光体験の創出に向けた具体的な推進方法をご紹介します。
来訪者にとって分かりやすい展示
文化観光の目的は、地域の文化を深く理解し、その魅力を感じてもらうことにあります。そのため、訪れた人にとって分かりやすい展示が不可欠です。
具体的には、以下のような工夫が求められます。
●展示パネルの改善:専門的な表現を避け、ストーリー性のある解説を用いる
●ビューシアターの導入:映像を通じて視覚的に文化の背景や物語を伝える
●多言語対応:外国人観光客向けの解説を提供する
●ICTの活用:AR(拡張現実)やVR(仮想現実)など、インタラクティブで没入感のある体験を提供する
こうした取り組みによって、専門知識のない方や日本語がわからない方でも地域文化を楽しく学び、深く理解することが可能になります。
持続可能な経営のためのリソース確保
文化観光拠点施設を長期的に継続していくためには、財源や人材といった経営資源の確保が欠かせません。
施設の財源には、公営施設の運営予算や補助金などの「公的資金」、クラウドファンディングや企業協賛をはじめとする「寄付」、マネタイズによる「収益」の3つがあります。収益化の方法はさまざまで、例えば次のような方法が考えられます。
●入館料等のサービス料金の見直し
●ミュージアムショップ・カフェ等の運営
●会議・レセプション会場として貸し出す(ユニークベニューとしての活用)
●体験ツアーの実施
1つの経営資源に依存しすぎると、想定外の来訪者減や入館料減などが起きたときに運営の維持が困難になる可能性があるため、多様な資金調達手段を検討することが大切です。
地域との連携強化
文化観光は、文化施設だけで完結するものではなく、地域全体で支える体制があってこそ成功につながります。文化観光推進事業者(文化観光の推進に関する事業を行う事業者)や自治体、企業、地域住民が連携し、企画・運営を進めることが重要です。自治体には、各関係者が主体的に取り組めるよう、ニーズの把握や活動の場づくりをする役割が求められます。
また、文化ガイドや体験プログラムの運営者など、文化観光を支える地域の担い手も欠かせません。人材の育成・確保のため、地域内での教育・研修体制の整備が必要です。
インフラの整備による利便性向上
観光客の満足度を高めるためには、文化施設へのアクセスや施設内の利便性を向上させることが重要です。
特に交通手段が限られている施設は、コミュニティバスやシャトルバス、レンタサイクルといった施設までの二次交通の充実を図ることが、より快適で満足度の高い観光体験につながります。観光事業者などと協力し、移動中から文化を感じられる仕掛けを取り入れることで、移動そのものを文化体験の一部とし、利便性の向上と文化振興を両立させることも可能です。
このほか、キャッシュレス決済の導入やバリアフリー化、営業時間の延長なども観光客の利便性向上につながります。
プロモーション活動
観光客に向けて、地域の魅力を発信するプロモーションも不可欠です。効果的に情報を発信するには、ターゲットを明確に設定し、発信する情報とタイミングを見極める必要があります。次のように、旅行の各段階を意識することが有効です。
●旅マエ(旅行前):旅行計画を促す情報
●旅ナカ(旅行中):現地での体験を充実させる情報
●旅アト(旅行後):思い出を共有する情報
特に、文化観光を推進するうえでは、「旅ナカ」で触れる情報の質と量を充実させることが重要です。観光客が文化資源への理解を深めながら、現地での体験に高い満足感を得られるよう、的確かつ魅力的な情報提供が求められます。
なお、文化観光のプロモーションにWebページやSNSを活用する際は、日本政府観光局(JNTO)が提供する「JNTOデジタルマーケティングガイドライン集」を参考にするのがおすすめです。このガイドラインでは、外国人旅行者向けの魅力的なWebサイトの作り方や、効果的なSNS運用のノウハウが紹介されています。
文化観光の取り組み事例
文化観光に取り組む際には、成功事例を参考にすることで、具体的なヒントや方向性を見出しやすくなります。ここでは、TOPPANが各地で行った文化観光支援について、具体的な取り組み内容や成果をご紹介します。
周遊観光を促進する拠点・サービス開発

VRコンテンツ『高野山 壇上伽藍ー地上の曼荼羅ー』
製作協力:高野山真言宗 総本山金剛峯寺
製作著作:TOPPAN株式会社 © TOPPAN INC.
和歌山県高野山では、日帰りで訪れる観光客の多さから、宿泊や地域内の周遊が十分に行われておらず、地域経済の活性化が課題となっていました。そこでTOPPANは、文化庁による「文化観光拠点計画」の策定支援を行い、観光庁の補助金を活用した、「高野山デジタルミュージアム」の開発・運営をサポートしました。
この施設には、VRシアターやカフェ・ショップも併設されており、高野山の歴史や文化を深く知ることができます。これにより、滞在時間の延長や地域消費の促進に寄与しました。
さらに、僧侶と共に行う「瞑想体験」や、「夜間境内ガイドウォーク」などの特別ツアーも展開し、文化資源の魅力を活かした持続可能な観光モデルを実現しました。
・参考:文化資源の魅力を伝える周遊拠点・サービス開発|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
VR技術を活用した「バーチャル博物館」の制作

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、来館者数が減少した国立アイヌ民族博物館では、TOPPANと連携し、VR技術を活用した「バーチャル博物館」を制作しました。
同オンラインコンテンツには、展示物や収蔵資料、研究員・学芸員による解説動画などが3Dモデリングによって盛り込まれています。また、国立アイヌ民族博物館の展示を自宅など遠方からでも臨場感のある鑑賞体験ができるようになりました。
これにより、アイヌ文化の発信力強化と新たな学習機会の創出につながっています。
・参考:オンラインの博物館コンテンツを整備しアイヌ文化を発信|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
デジタル文化財を活用して来訪者の理解度・満足度を向上

奈良県の春日大社とその周辺地域の文化観光振興を図るため、春日大社の歴史や祭事を紹介する映像や、現存しない五重塔を再現したVRアプリ、ドローン映像などを制作しました。
さらに、訪日外国人にも分かりやすいよう、GPS連動の映像で参拝方法や文化保護の取り組みを紹介しています。また、周辺情報やアプリの使い方を案内するパンフレットも作成し、二次元コードから事前視聴できる仕組みも構築しました。
これらの取り組みにより、訪日外国人観光客の文化理解と滞在満足度の向上、地域の周遊促進に貢献しています。
・参考:文化財のデジタル活用・観光アプリによる周遊促進|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
歴史資料の保存・活用による魅力創出

愛媛県松山市では、道後温泉固有の文化資源である「道後温泉史料」について詳細な調査を行い、その価値を明確化したうえで、資料の整理・保存・データベース化を実施しました。
具体的には、高精細なレプリカの展示やスタンプラリーなどのイベントを開催し、地域の文化的魅力を来訪者に向けて発信しています。また、多言語対応のWebサイトも整備し、国内外の観光客を迎える体制を整えました。
この取り組みを通じて、歴史資料の保存と有効活用が進み、地域の活性化につながっています。
文化観光推進の課題
文化観光を地域振興の柱として位置づける動きが広がるなか、実現に向けては多くの課題が存在します。ここでは、文化観光推進の主な課題について解説します。
文化資源の保護と活用の両立
文化財や歴史的建造物は、後世に継承すべき貴重な資産であり、その保護が最優先されます。しかしその一方で、観光資源としての活用による地域経済への貢献も期待されており、多くの来訪者による文化財への物理的負荷をどう軽減するかが重要です。
そこで注目されているのが、デジタル技術の活用です。例えば、高精細な3D映像やVRコンテンツを用いることで、文化財の本来の魅力を伝え、保存状態を維持したまま観光体験の提供ができます。
TOPPANでは、こうした技術を活かし、文化資源の魅力を高めながら劣化を防ぐ取り組みを支援しています。これにより、文化財の保護と収益性の両立を図る持続可能な観光の実現が期待されるでしょう。
・博物館・自治体・企業などの文化財ホルダー様へ|デジタル文化財ソリューション|TOPPAN BiZ
持続可能な収益モデルの構築
文化観光を持続可能な産業として成長させていくためには、収益性も重視しなければなりません。入場料や補助金だけではなく、地域ブランド商品の開発や販路拡大、周遊を促すイベント・キャンペーンの実施など、拠点周辺の消費を拡大できる取り組みが必要です。
また、文化の担い手である職人や伝統芸能の継承者が活動を継続できるような仕組みづくりも求められます。収益の一部が、担い手へ適切に還元されることが、文化の継承と保護にもつながります。
TOPPANでは、地域回遊を促すデジタルコンテンツの制作や、ブランド価値を伝えるWebメディアの運営支援を通じて、文化観光の価値向上に貢献しています。
・自治体観光誘客 XR観光ガイドアプリ ストリートミュージアム®|TOPPAN BiZ
・食を通じたPRで特産品や食資源のブランデイングを実現 「SHUN GATE」|TOPPAN BiZ
推進体制と人材の確保
文化観光の推進は、継続することで地域の発展につながっていきます。文化観光の取り組みが単発的なものとならないよう、地域の資産として根づかせることが重要です。
そのためには、文化資源を保存する人材と、それらを活用する人材、両者をつなぐコーディネーターの役割を果たす人材の確保と育成が欠かせません。計画策定を担う自治体の職員や文化財担当者に対しては、専門的知見や継続的な研修体制を構築することも求められます。
文化観光推進の第一歩は文化資源の見直しから
文化観光とは、地域に根ざした歴史・伝統・文化財といった「文化資源」を活かし、訪れる人々に深い理解や体験を提供する観光の形です。このアプローチは、地域ならではの魅力を効果的に発信し、観光客に感動や学びを与えるだけではなく、地域の活性化や持続可能な発展にもつながるといった大きなメリットがあります。
しかし、文化観光を推進するためには、まず自分たちの地域にどのような文化資源があるのかを正確に把握し、活用可能な形で整理・再評価することが必要です。
TOPPANでは、文化資源の調査から観光戦略の立案、施設整備やコンテンツ制作まで一貫してご支援し、地域全体の魅力づくりと発信をサポートいたします。
文化観光の取り組みをお考えの自治体・団体の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
・文化観光活性化支援サービス|計画策定から拠点・サービス開発まで一括支援|TOPPAN BiZ

参考文献
- 参考文献:文化庁 文化観光推進ガイドブック(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/94034301_02.pdf)
- 文化観光|観光庁 (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/index.html)
- 文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律(令和二年法律第十八号)|法令検索 (https://laws.e-gov.go.jp/law/502AC0000000018)
- 文化観光推進ガイドブック|文化庁 (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/94034301_02.pdf)
- 文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について|文化庁 (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunkazai/kikaku/h29/matome/pdf/r1399287_01.pdf)