2025.05.30

観光DXとは?デジタル化のメリットと取り組み事例を解説

観光DXは、観光地や観光事業者の課題解決と、観光客の満足度向上を実現する取り組みです。本記事では、観光DXの概要と必要性、推進する際の課題と解決策、具体的な取り組み事例を解説します。

観光DXは、観光地や観光事業者が抱える課題を解決し、観光客の満足度向上も実現できる取り組みです。国を挙げて推進されており、その効果は観光客の利便性向上や新たな顧客体験の創出、観光マーケティングの高度化など多岐にわたります。

この記事では、観光DXの概要と必要性、観光DXを進める際の課題と解決策、TOPPANが支援させていただいた具体的な取り組み事例をご紹介します。

観光DXとは

観光DXとは、単なる業務のデジタル化による効率化にとどまらず、デジタル技術によって得られたデータを分析・活用し、観光業の抜本的な変革を実現する取り組みです。

これにより、次のようなビジネス戦略の見直しや新たなビジネスモデルの創出が目指せます。

● 宿泊や体験の予約・決済を一括で行える地域サイトの整備
● 利用者に合わせた情報の自動提案
● 宿泊施設での予約管理システムの導入による業務の効率化とサービスの高度化
● 旅行者の行動データを活用したマーケティングや、戦略的な観光地運営の取り組み など

これらの取り組みにより収集されるデータは、観光客の動向分析や需要予測など多岐にわたる用途に活用が可能です。

観光DXの取り組みは、国としても後押ししています。観光庁は「観光DX推進プロジェクト」を実施するなど、観光産業や観光地が抱える課題を解決する有効な手段として、観光DXの導入を積極的に推進しています。

観光DXが求められている背景

近年、観光DXの必要性が高まっている背景には、多様化する観光客のニーズや、スマートフォンを活用した情報収集・予約などにより、これまで以上に質の高い体験が求められるようになったことが挙げられます。こうした変化に対応するためには、従来のサービス提供の仕方やマーケティング手法を見直すことが不可欠です。

また、慢性的な人材不足が続く観光業界では、業務効率化の側面からもDXの導入が急務となっています。さらに、インバウンド需要の回復に向けた、多言語対応や受け入れ体制の強化も課題です。

こうした多様なニーズに応える手段として、AIやビッグデータを活用した予測やマーケティングが可能になったことも、観光DX推進の一因といえます。

観光DXを推進するメリット

観光DXを推進することは、観光客、事業者、そして地域全体に多くの恩恵をもたらし、地域活性化の促進にもつながります。ここでは観光DXを推進するメリットをご紹介します。

観光客の利便性向上

キャッシュレス決済やスマートフォンを活用したサービスの提供で、現地での支払いや情報収集などの手間を軽減し、観光客の旅行体験をより快適でスムーズなものにします。また、多言語対応やオンライン予約システムの導入により、国内外の観光客にとって事前の情報収集や旅行計画が容易になるでしょう。

例えば、TOPPANが提供する「nomachi」は、施設の混雑状況をリアルタイムに可視化することで、観光客の快適な回遊をサポートします。

混雑状況や空席をリアルタイムで可視化し、顧客満足度と施設集客を改善「nomachi」

新たな顧客体験の提供

VRやARといった先端技術を活用することで、観光地の魅力をより臨場感のある形で伝えることが可能です。また、ビッグデータをもとに個々の興味・関心に合わせた情報やサービスを提供することで、観光客の満足度を高める新たな体験を創出できます。

例として、TOPPANの「ストリートミュージアム®」は、VR技術で史跡を再現し、訪れた観光客にまるでその時代にタイムスリップしたかのような体感を提供します。

自治体観光誘客 XR観光ガイドアプリ ストリートミュージアム®

事業者の業務効率化とコスト削減

予約管理や顧客管理などのデジタル化によって、観光業における大きな課題である業務効率の向上を実現でき、人手不足の解消にもつながります。

さらに、データを活用した効果的なマーケティング施策の実施や在庫管理の実現により、無駄を抑えた運営が可能となり、集客力と収益性の向上が期待できます。

このように、観光DXはサービスの質を高めるだけでなく、持続可能な地域観光の実現にもつながる重要な取り組みといえるでしょう。

観光DXを進める際の課題と解決策

観光DXの推進は多くのメリットをもたらす一方で、その実現には乗り越えるべき課題も存在します。これらの課題に柔軟に対応し、DXを成功に導くためには、状況に応じた適切な解決策を講じることが不可欠です。

ここでは、観光DXを進めるための主な課題と、その解決策をご紹介します。

デジタル人材と財源の確保

観光業界におけるDX推進で大きな課題となっているのが、デジタル技術に精通した人材の不足と、それに伴う財源の確保です。新しいシステムの導入やデジタル人材育成には相応のコストがかかり、特に地方の中小企業や観光事業者にとっては大きな負担となっています。

こうした課題を解決するための手段として、組織内でのデジタルスキル向上の研修や、専門機関や民間企業と連携した産官学連携の取り組みが有効です。IT企業やコンサルタントなど外部の専門家とのパートナーシップを活用することも、スムーズな導入に貢献します。

また、国が提供する補助金・助成金制度の活用や、クラウドファンディングなど新たな資金調達手段を検討することも、一つの解決策となります。

旧システムとの連携

観光業界では、既存の古いシステムを利用しているケースが多く、新たなデジタル技術やサービスとの連携が困難な場合があります。これが観光DXの推進を妨げる要因となり得ます。

このような課題を解決するためには、拡張性の高いクラウドサービスや、既存システムとスムーズに連携できるオープンAPIの活用が効果的です。システム選定時には導入支援が充実しているツールやシステムを選ぶことが望ましいでしょう。

また、新しいシステムの導入にあたり、観光客の個人情報や決済情報などの漏えいを防ぐための対策も欠かせません。並行して従業員へのセキュリティ教育を徹底することも、DXの成功に不可欠な要素といえるでしょう。

観光DXの取り組み事例

観光DXは、地域の特性や課題に応じて、全国各地でさまざまな形で展開されています。

ここでは、TOPPANが各地の自治体や観光関連機関と連携・ご支援させていただいた、観光DXの5つの取り組み事例をご紹介します。それぞれの地域が、どのように課題を乗り越え、成果を上げているのかを見ていきましょう。

【北海道】アイヌ文化をオンラインで体感できるバーチャル博物館

【北海道】アイヌ文化をオンラインで体感できるバーチャル博物館

北海道白老町にある国立アイヌ民族博物館では、コロナ禍による入館者の減少やインバウンド需要の低迷を受け、VR技術を活用した「バーチャル博物館」を立ち上げました。

この取り組みにより、来館できない方でもオンライン上で展示を体験できるようになり、3Dモデルによる収蔵資料の鑑賞や解説付きのツアーコースを、自宅にいながら楽しむことが可能になりました

高精細な映像やクラウドサービスを活用した展示コンテンツの整備を通じて、誰もが場所や時間を問わずアイヌ文化に触れられる環境が整い、文化継承と新たな観光資源としての発展が期待されています。

オンラインの博物館コンテンツを整備しアイヌ文化を発信|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

【奈良県】VR技術で春日大社の魅力を世界へ発信

【奈良県】VR技術で春日大社の魅力を世界へ発信

奈良県では、ユネスコ世界遺産である春日大社をさらに魅力的な観光資源として発信するため、VR技術を活用した観光アプリを導入しました。これは、かつて存在した春日大社の五重塔や、普段は目にすることができない「春日若宮おん祭」などの祭事を再現し、臨場感あふれる体験を提供する取り組みです。

また、多言語音声翻訳サービスを通じて参拝方法や文化保護の取り組みを解説することで、訪日外国人観光客の利便性の向上にもつなげました。併せて、周辺観光名所やアプリの使い方を紹介するパンフレットを制作し、観光満足度の向上も実現しています。

デジタル文化財による周遊促進|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

【群馬県富岡市】新たな観光体験を生み出す富岡製糸場CG映像ガイド

【群馬県富岡市】新たな観光体験を生み出す富岡製糸場CG映像ガイド

群馬県富岡市では、世界遺産・富岡製糸場の価値や魅力をより深く伝えるため、先端映像技術を活用した観光施策を展開しています。スマートグラスやVR技術を用いたCG映像ガイドを開発し、観光客が歴史的背景や建築構造をわかりやすく、かつ臨場感たっぷりに学べる観光体験を実現しました。

さらに、多言語対応のガイドツアーシステムを整備することで、海外からの観光客にも配慮したインクルーシブな観光環境を構築し、快適で学びのある新たな観光体験を提供しています。

先端映像技術により文化財の理解を深める|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

【京都府宇治市】データ分析に基づく戦略的観光振興計画

【京都府宇治市】データ分析に基づく戦略的観光振興計画

京都府宇治市では、「宇治市観光振興計画」に基づき、戦略的な観光振興に取り組んでいます。その中で、観光客の行動やニーズの変化を的確に捉え、今後の観光戦略に活かすために実施したのが、位置情報による人口動態調査やSNS分析など、ビッグデータを活用した多角的な調査です。

得られたデータをもとに、持続可能な観光戦略を策定し、地域の魅力を高めながら観光施策の最適化を進めています。

観光振興計画の目標設定および観光政策の企画・立案に資するデータ取得|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

【愛知県】データ活用で進化する観光マーケティング

【愛知県】データ活用で進化する観光マーケティング

愛知県にて、観光客数の増加や観光消費額単価の向上を図るために取り組まれているのが、データドリブンの観光マーケティングです。既存の観光統計に加え、リサーチ会社との連携により独自に収集したデータを活用し、旅行者のカスタマージャーニーにおける課題を明確化したうえで、来訪者の属性分析やWeb・位置動態調査などを実施しています。

これらの分析結果をもとに、データを活用した動画広告やウェブサイト誘導施策を展開し、広告効果を検証しました。検証結果は、観光キャンペーン『あいち「ツウ」リズム』の重点ジャンルの選定など、より効果的な戦略策定に反映されています。

旅行者のカスタマージャーニーに沿った情報分析による観光振興|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

観光DXに取り組むポイント

観光DXを成功させるには、単にデジタル技術を導入するだけでなく、地域や観光資源の特性に合った施策を選定し、段階的かつ戦略的に取り組むことが重要です。これまでにご紹介した事例から見えてくる共通の要素を整理することで、DX推進のために押さえるべきポイントが明確になるはずです。

ここでは、観光DXに取り組む際に意識すべき観点と、具体的なアクションのヒントをご紹介します。

地域全体での連携

観光DXを効果的に推進するためには、観光事業者、自治体をはじめとする官公庁、地域住民など、地域を構成するすべての関係者がDXの重要性を理解し、共通の目標に向かって連携することが不可欠です。各主体が自らの役割と責任を理解し、それぞれの強みを活かして協働することで、地域独自の魅力を発信する観光DXが実現します。

TOPPANでは、文化観光活性化のご支援が可能です。地域に点在する文化観光資源を結びつけるストーリーの策定を通じて地域の魅力を最大化することで、文化観光・周遊観光の促進を支援し、地域全体の活性化をサポートしています。

文化観光活性化支援サービス|計画策定から拠点・サービス開発まで一括支援

観光客のニーズの分析

観光客の満足度を高めるには、観光客の行動データや地域資源データを収集・分析し、ニーズを的確に把握したうえで、それに応じたサービス改善やマーケティング施策を展開することが重要です。観光DXは導入して終わりではなく、観光客のニーズの変化や技術の進化に応じて、継続的にシステムや施策を見直す柔軟性が求められます。

TOPPANでは、課題解決型のマーケティングリサーチやプロモーション施策を通じて、地域に最適化された顧客体験の創出を支援しています。

マーケティングリサーチ支援サービス

明確な目標設定

観光DXの成功には、まず「何を達成したいのか」という明確で具体的な目標設定が必要です。

観光客の満足度向上、業務の効率化、地域全体の活性化など、地域ごとの課題に応じて目的は異なります。抽象的なビジョンだけでなく、目的に応じて、来訪者数の増加率や回遊率、滞在時間などの数値指標を用いた具体的な目標を定め、定期的に効果測定を行うことで、取り組みの進捗と成果を可視化することが可能になります。

成功事例をヒントに観光DXを推進しよう

観光客の誘致や慢性的な人手不足といった課題を解決する方法として、観光DXの推進は今や必要不可欠な手段となっています。その実現に向けては、他地域の成功事例から学ぶことが有効です。各地域の取り組みには、それぞれの課題や特性に応じた工夫やノウハウが詰まっており、自分の地域におけるデジタル活用のヒントを得ることができます。

TOPPANでは、これまでに培った自治体支援の実績をもとに、観光DXの多様な取り組みを幅広くサポートします。「観光DXを進めたいけれど、何から始めればよいかわからない」といった場合も、ぜひお気軽にご相談ください。

TOPPAN SOCIAL INNOVATION WEB 編集部

参考文献

  • 観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進 | 持続可能な観光地域づくり戦略 | 観光政策・制度 | 観光庁https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/jizoku_kankochi/kanko-dx.html

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