2025.12.21
デジタルアーカイブとは|文化を未来へつなぐ保存と活用の仕組み
地域の文化財や歴史資料を「デジタルアーカイブ」によって適切に保存・活用することで、魅力発信につながります。本記事では、自治体によるデジタルアーカイブ活用の意義や構築の流れ、活用事例を紹介します。
地域の文化財や歴史資料、郷土料理といった貴重な資源を未来へ受け継ぐ手段として、「デジタルアーカイブ」が注目されています。デジタルアーカイブを適切に運用し、保存だけでなく「公開・活用」を強化することで、地域価値の向上にもつながります。さらに、自治体・文化施設・地域団体の継続的な情報発信にも貢献するでしょう。
本記事では、デジタルアーカイブの意義や構築プロセス、先進的な活用事例、地域価値を高めるためのポイントをわかりやすく解説します。
【この記事でわかること】
・デジタルアーカイブの概要
・デジタルアーカイブの構築プロセス
・デジタルアーカイブの活用方策

デジタルアーカイブとは
そもそも「アーカイブ」とは、「将来にわたって保存する価値のある資料を記録・保管すること」および「その保存場所や機関」を意味します。そこから発展した「デジタルアーカイブ」は、資料をデジタル技術で収集・デジタル化し、データベースとして保存・蓄積したうえで、ネットワークを通じて検索・活用できる状態にする取り組みです。
対象となるのは、博物館・図書館・文書館の資料に限らず、自治体や企業が保有する文書・設計図・映像資料・地域の文化や伝統・産業技術、日常生活の記録など多岐にわたります。
・文化財のデジタルアーカイブとは?意義や進め方をわかりやすく解説|コラム|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
デジタルアーカイブ活用の意義
デジタルデータの特性として、文字・図表・画像・映像・音声など多様な情報を統合して扱えることや、複製や保存を行っても劣化しにくいこと、時間や場所を問わずアクセスできることが挙げられます。これらの強みを持つデジタルデータは、研究・学習支援、地域振興、防災、経済発展、新たなコンテンツ創出など幅広い分野で活用が可能です。
デジタルアーカイブは、デジタル時代における「知識循環型社会」を支える基盤として重要性が高まっています。ここでは、自治体がデジタルアーカイブを活用する意義を詳しく解説します。
文化財・資料の劣化や災害リスクへの備え
文化財や歴史資料は、時間の経過や温湿度の変化などによって劣化・損傷するリスクを常に抱えています。さらに、地震・火災・水害といった災害により、貴重な資料が一瞬で失われる可能性もゼロではありません。デジタル化によって、原本の状態を高精度に記録・保存し、劣化や紛失に備えることが可能です。
また、複製データを分散保存することで、災害時のバックアップとしても機能します。デジタルアーカイブは、文化財保護と後世への継承を支える重要な手段です。
TOPPANでは、文化財・歴史資料のアーカイブ構築を支援しています。資料の形態や特性に応じた高水準なデジタル化に対応しており、貴重な資料の劣化を防止しながら、効果的な管理・活用を実現いたします。
・文化財・歴史資料アーカイブ活用支援サービス|TOPPAN Biz
教育・観光・地域振興への波及効果
デジタルアーカイブは、歴史や文化に関する資料を教育現場で活用できる点でも大きな価値があります。学習意欲を高め、理解を深める教材として役立つほか、学校や地域施設でのデジタル展示、オンラインでの閲覧も可能です。
また、観光分野では、デジタル技術を用いたバーチャル展示や文化体験が、地域の魅力を発信する手段となります。地域の文化・産業遺産を可視化することで、地域ブランドの形成や交流人口の拡大にも寄与するでしょう。
こうした教育・観光・地域振興の連携により、地域全体の活性化と持続的な発展も期待できます。たとえば、TOPPANが提供する「現地体験型XR観光アプリ」は、史跡の往時の姿の復元を可能にし、失われた文化財の再現と、現存する文化財の保存・活用に役立てられています。
教育・観光・地域振興への波及効果
バーチャル博物館は、単なるオンライン展示を超え、教育や地域振興にも新たな価値をもたらしています。地域の魅力を国内外に発信することで、観光誘致や関係人口の拡大に寄与するほか、学校や地域団体との連携によって、教育資源としても活用可能です。
さらに、オンラインと現地体験を組み合わせることで、歴史や文化を体験的に学ぶ機会や、地域の新たな魅力を創出することにもつながります。
・自治体観光誘客 XR観光ガイドアプリ ストリートミュージアム®|TOPPAN Biz
自治体・文化施設の発信力強化
デジタルアーカイブを活用することで、自治体や文化施設が保有する資料や情報を、より広く効果的に発信できるようになります。オンライン公開によって、地域外や海外からのアクセスが可能となり、情報発信の範囲が飛躍的に拡大します。また、デジタル展示やSNS連携を通じた多角的なPRにも効果的です。
さらに、蓄積したデータをもとにした企画展やコラボレーションは、新たな来訪者の獲得や地域への関心喚起にもつながるでしょう。こうした発信力強化は、地域の認知度向上やブランド価値の確立にも寄与します。
TOPPANでは、デジタルアーカイブ構築からコンテンツ化まで一貫して支援し、多様なソリューションを組み合わせた体験価値向上のための施策を提供しています。
デジタルアーカイブの構築プロセス
デジタルアーカイブを効果的に活用するためには、丁寧な計画と段階的な構築プロセスが不可欠です。ここでは、作成者・利用者双方にメリットをもたらし、持続的に成長するアーカイブを実現するためのプロセスについて解説します。
1. 企画・設計
デジタルアーカイブ構築で最初に取り組むべきことは、全体の目的と方向性を明確にするための企画・設計です。保存・公開の対象や活用目的を整理し、プロジェクトの基本方針を定める必要があります。
そのうえで、利用者層・運用体制・予算・スケジュールなどをふまえ、実現可能な計画を策定します。必要な機材・人材・システム構成を検討し、効率的かつ持続可能な仕組みを設計することが重要です。この段階での明確なビジョン設定が、後の運用や発信の質を大きく左右します。
2. 資料のデジタル化
資料のデジタル化は、企画・設計に基づき選定した資料を高精度でデジタルデータ化する作業です。これは、文化財や資料を後世に残すための基盤をつくる重要な工程です。
文書・写真・映像・音声など、資料の種類に応じて最適なスキャン・撮影・録音方法を採用しましょう。原本を損なわないよう、専門知識と技術による慎重な作業が求められます。
また、解像度・色調・ファイル形式などの品質基準を統一し、長期保存に適したデータを作成することも大切です。
3. メタデータの作成・付与
次に行うのが、デジタル化した資料に内容や属性を説明するための「メタデータ(付加情報)」を付与する工程です。適切なメタデータ設計は、アーカイブの利活用を支える基盤となります。具体的には、タイトル・作成者・年代・場所・テーマなどの情報を整理することで、資料の検索性や分類のしやすさが向上します。
また、メタデータは利用者が目的の資料を見つけやすくするだけでなく、資料の信頼性向上にも有用です。国際規格や共通フォーマットに準拠して作成することで、他機関とのデータ連携や活用も可能です。
4. 検索・閲覧システムの構築
デジタル化した資料を、誰もが効率的に検索・閲覧できるようにするためには、適切なシステムの構築が不可欠です。利用者の目的や操作性を考慮し、直感的に使える検索・閲覧インターフェースを設計する必要があります。設計に基づき、メタデータを活用してキーワード検索や分類別閲覧、関連資料の表示といった機能を実装しましょう。
さらに、「高解像度画像の拡大表示」「マップ連携」「タイムライン表示」などの目的に応じた機能を搭載することで、安定した運用とセキュリティを確保しつつ、利用者に開かれたアーカイブ環境を整備することが可能です。
5. 運用・保守・データ更新の継続
デジタルアーカイブは構築して終わりではなく、継続的な運用と保守が欠かせません。データの劣化やリンク切れを防ぐために定期的な点検・バックアップを行い、新たな資料の追加や情報更新によって、常に最新の状態を維持することが重要です。
また、システム改良やセキュリティ対策も継続的に実施し、安定した利用環境を整備する必要があります。利用者のニーズやフィードバックを反映させながら、アーカイブが発展し続けるよう運営することが求められます。
デジタルアーカイブ利活用の成功事例
全国各地で、デジタルアーカイブを活用した地域振興や文化継承の取り組みが進んでいます。文化財や歴史資料をオンラインで公開し、教育・研究・観光資源として活用する事例が増えており、地域住民と協力して暮らしや記憶を記録・共有するプロジェクトも展開されています。また、デジタル技術とクリエイティブ産業を組み合わせ、新たなコンテンツや体験型観光を生み出す動きも活発です。こうした取り組みは、アーカイブの価値を「保存」から「活用」へと広げるモデルとなっています。
ここでは、TOPPANが支援させていただいた、デジタルアーカイブ利活用の具体的な事例をご紹介します
博物館等収蔵品のデジタルアーカイブを活用した体験イベント
群馬県の文化振興課では、美術館・博物館の収蔵品を高精度にデジタル化し、館外で活用することで地域のにぎわい創出と交流人口の拡大を目指しました。この背景には、2023年の改正博物館法施行にともない、文化財のデジタルアーカイブ化と新たな発信の仕組みづくりが求められたことがあります。
課題解決のために取り組んだのが、デジタル化した収蔵品を活用し、MR技術を取り入れた体験型コンテンツの制作です。前橋中央通り商店街にて「群馬デジタルミュージアムロード」を開催し、参加者はMRゴーグルを通して収蔵品を鑑賞するという、非日常の体験を楽しみました。
これにより、デジタル化による保存性の向上だけでなく、実際の博物館・美術館への来訪促進や地域活性化にも寄与しています。
・参考:博物館収蔵品のデジタルデータを活用したデジタルコンテンツによるにぎわい創出イベントの実施|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
地域の暮らしと文化をデジタルアーカイブ化で保存・継承・創造
京都市伏見区深草地域では、歴史的資源の価値を広く住民に伝え、後世に継承するため、地域の文化団体や大学などと連携しながら、古写真・映像・資料のデジタルアーカイブ事業に取り組みました。
具体的な取り組み内容は、貴重な資料の収集・デジタル化、補正やキャプション作成などです。さらに、ワークショップも開催し、多世代が地域の文化・歴史に触れ、自由に語り合える機会を提供しました。
また、ウィズコロナ社会に対応した普及啓発として、アーカイブ資料を活用した映像を制作し、WebサイトやYouTubeで幅広く発信しています。告知用チラシやリーフレットの作成も行うなど、保存・継承だけでなく、住民参加型の文化創造と地域活性化も実現した事例です。
・参考:未来へ紡ぐデジタルアーカイブで地域の文化を保存・継承・創造|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
ユネスコ無形文化遺産「和食」文化の存続に寄与する郷土料理のアーカイブ化
農林水産省 食料産業局では、食の多様化や伝承者の高齢化により、地域の食文化や郷土料理の継承が課題となっていました。そこで、ユネスコ無形文化遺産「和食」の存続を目的として、全国の郷土料理を調査・記録し、デジタルアーカイブ化を実施しました。各地の料理の歴史・由来・行事・食材・調理法を整理し、写真や動画を交えたレシピページを作成しています。
これらを農林水産省のWebサイトで公開し、Web広告や実食イベントを通じて周知・普及を図っています。とくに、子育て世代や料理愛好層への発信を強化したことで、郷土料理への関心を高め、食文化の継承に貢献しました。本事業によって、地域ぐるみで食文化を守りながら、和食文化の振興を支える新たな仕組みの構築へとつなげています。
・参考:「和食」を次世代へ継承する|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
震災の記録を未来につなげる被災地域における記録のデジタルアーカイブ化
2011年7月に策定された「東日本大震災からの復興の基本方針」では、震災の記録や教訓を次世代に伝えるため、情報の収集・保存・公開体制の整備が求められました。これを受け、散逸や風化を防ぐために岩手県庁 岩手県復興局が実施したのが、収集した被災地域の写真・映像・証言などのデジタル化です。
アーカイブ化した資料はWeb上で公開され、誰もが閲覧・活用できる仕組みが構築されました。これにより、防災・減災の研究や学校教育、地域交流への活用が進むとともに、震災の記憶と教訓を国内外へ伝える基盤が形成されています。
・参考:貴重な被災地域の記録を収集し、経験・教訓を後世に残す|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION
デジタルアーカイブを活かした地域価値創出のポイント
デジタルアーカイブは、地域に眠る歴史・文化・自然・食などの多様な資源を「見える化」し、誰もがアクセスできる形で共有する取り組みです。こうしたデジタル化は、地域の魅力を再発見し、観光・教育・まちづくりなど多方面への活用を促す重要な基盤となります。地域の未来づくりに生かすには、保存にとどまらず「どのように活かすか」という視点が不可欠です。
ここでは、デジタルアーカイブを活用した地域価値創出のポイントについて解説します。
保存にとどまらない「公開・共有・利活用」
デジタルアーカイブは、資料を「保存する」だけでなく、「公開・共有・利活用」してこそ真価を発揮します。新たな学びや交流を生み、地域資源の価値を広く伝えるためには、地域住民や観光客、研究者など、誰もがアクセスできる環境を整えることが重要です。
また、利活用を通じて魅力発信や観光振興、教育活動への波及効果も期待できます。継続的な更新と利用促進を重ねることで、アーカイブの持続的な発展につながります。
市民・観光客・教育機関を巻き込む参加型の展
デジタルアーカイブを市民や観光客、教育機関など多様な主体と連携して活用することで、地域全体で価値創出が促進されます。
地域資源への理解や愛着を深める機会としては、ワークショップや体験イベントなどの実施が効果的です。また、学校や地域施設が行うプログラムと連携することで、学びと地域体験を結びつけることも可能です。
住民や来訪者の参加によって新たな視点や物語が加われば、アーカイブは進化し続けます。これにより、「みんなでつくる地域の記録」として、コミュニティの絆強化にも貢献するでしょう。
リアルイベントとの連携
デジタルアーカイブの内容を、現地イベントや展示会と組み合わせ、参加者が体験的に学べる機会を創出することもポイントのひとつです。実際の場所や文化財を訪れながら、デジタル情報を参照することで、理解や感動をより深めることが可能です。
さらに、地域の祭りや観光企画、教育イベントなどとの連携により、幅広い層への発信も強化できます。デジタルとリアルの相乗効果により、地域資源の魅力を多面的に伝えることができ、来訪促進や地域経済の活性化にも寄与するでしょう。
持続可能なデジタルアーカイブ運用と情報発信の実現へ
デジタルアーカイブは、文化財や地域資源を保存するだけでなく、継続的に活用・発信していくことが重要です。技術の進化に応じたデータ更新やシステム保守を行い、長期的に運用できる体制づくりが求められます。
さらに、行政・企業・教育機関・市民が連携し、共有や参加の仕組みを整えることで、持続可能な活用が可能となります。また、国内外への情報発信によって地域の価値が高まれば、新たな交流やイノベーション創出の基盤にもなるでしょう。
デジタルアーカイブを「地域の未来をつなぐ鍵」とするためには、「守る」だけでなく「活かす」視点が必要です。
TOPPANでは、さまざまなデジタルアーカイブソリューションを通じて、地域価値の創出につながる施策を支援しています。取り組みの検討や課題解決にお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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参考文献
- NPO法人日本デジタルアーキビスト資格認定機構(https://jdaa.jp/digital-archives)
- 「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン|デジタルアーカイブジャパン推進委員会実務者検討委員会(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/pdf/guideline_2023.pdf)










