2025.12.20

バーチャル博物館で広がる地域文化発信の可能性|自治体・文化施設の新たな挑戦

デジタル技術を活用した「バーチャル博物館」では、時間や場所に依存しない新たな鑑賞体験を提供できます。本記事では、バーチャル博物館のメリットや構築方法、メタバース・VRを用いた最新事例を紹介します。

近年、博物館はデジタル技術を活用し、時間や場所にとらわれない新しい鑑賞体験を提供しています。本記事では、バーチャル博物館の導入メリットや構築ステップ、メタバースやVR技術を活用した最新事例を通じて、文化資源の発信と来館体験の可能性をご紹介します。

【この記事でわかること】

・バーチャル博物館の概要
・バーチャル博物館の構築方法
・バーチャル博物館の成功事例

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バーチャル博物館とは

バーチャル博物館とは、インターネット上に展開される「仮想の博物館」のことです。オンライン専用の展示空間である場合や、実際の展示室をWeb上で再現し、まるで館内を歩きながら鑑賞するように体験できるサービスも含まれます。

主な特徴は、「いつでもどこでもアクセス可能」であり、地理的・時間的制約を受けにくいことです。作品画像や展示情報がデジタル化されることで、端末を通じて閲覧・体験できる仕組みです。

物理的な展示空間と並行、または補完的に展開し、新しい博物館利用の形を実現できます。

バーチャル博物館導入のメリット

バーチャル博物館は、従来の展示活動を補完し、新たな鑑賞体験を提供する手段として注目されています。デジタル技術の進化により、オンライン上でも質の高い展示や教育的価値の共有が可能になりました。ここでは、バーチャル博物館を導入する具体的なメリットを詳しく解説します。

来館できない層へのリーチと認知拡大

バーチャル博物館導入の最大のメリットは、物理的な制約を超えて多様な人々に展示を届けられる点です。インターネットを通じて、来館が難しい人々にも文化資源へのアクセス機会を提供でき、海外や遠隔地からの閲覧も可能です。

これにより、地域や国境を越えた情報発信が実現します。また、オンラインでの発信により、博物館の知名度向上や、新たな来館者層の開拓も期待できます。


展示更新・保存コストの最適化

バーチャル展示のメリットとして、物理的な会場設営や輸送費を抑えつつ、内容を更新しやすいことも挙げられます。バーチャル化により、作品や資料の保存・再利用が容易になり、展示内容を柔軟に修正・追加できるため、企画変更にも迅速に対応可能です。限られた予算で多様なテーマや表現方法を試せるため、運営の効率化も進むでしょう。

さらに、実物を扱わずに展示演出を再現できることから、貴重資料の劣化防止にもつながります。

教育・観光・地域振興への波及効果

バーチャル博物館は、単なるオンライン展示を超え、教育や地域振興にも新たな価値をもたらしています。地域の魅力を国内外に発信することで、観光誘致や関係人口の拡大に寄与するほか、学校や地域団体との連携によって、教育資源としても活用可能です。

さらに、オンラインと現地体験を組み合わせることで、歴史や文化を体験的に学ぶ機会や、地域の新たな魅力を創出することにもつながります。

バーチャル博物館の構築ステップ

バーチャル博物館を効果的に運営するためには、明確な目的設定と段階的な構築プロセスが重要です。展示のデジタル化や技術選定に加え、利用者の体験設計や公開後の運用・更新体制までを見据えた準備が求められます。ここでは、バーチャル博物館を構築する際の主なステップを順にご紹介します。

1. 展示物のデジタルアーカイブ化

バーチャル博物館の構築では、まず展示物をデジタルアーカイブ化する必要があります。対象となる資料や作品を選定し、撮影・スキャン・3Dモデリングなどで高精度にデジタル化します。高解像度画像や立体データを用いることで、細部まで正確に再現することが可能です。

デジタルデータには、保存・管理がしやすく劣化や紛失のリスクを軽減できるという特徴がありますが、「メタデータ」や「解説情報」を付与することで検索性がさらに高まります。

これにより、教育・研究利用に役立てられるほか、将来的な展示更新やオンライン公開にも柔軟に対応できます。

デジタルアーカイブコラム

文化財・歴史資料アーカイブ活用支援サービス|TOPPAN Biz

2.スキャナーやカメラを使ってデジタル化する

オンライン展示空間の設計では、ユーザーが迷わず鑑賞できるよう、バーチャル展示室や閲覧ルートを計画し、わかりやすい導線を整えることが不可欠です。

展示テーマごとに空間を区切るゾーニングや配置を工夫し、情報提供の充実につながる解説テキスト・音声・動画などの補助コンテンツを組み込むことで、理解を深められます。デバイスやブラウザへの最適化も行い、誰もがアクセスしやすい環境を整備することも重要です。

また、3D空間や360度画像、ユーザーの操作に反応するインタラクティブな要素を取り入れることで、より臨場感のある鑑賞体験を提供できます。

3. 公開と運用・更新の継続

完成したバーチャル展示はWeb上で公開し、広報活動によって来訪者を呼び込みます。公開後は、アクセス状況や利用者の反応を分析し、導線や内容の改善に役立てることが求められます。

解説や展示内容の更新、季節企画や特別展示の追加によって、常に新鮮な体験を提供することも重要です。教育・地域振興への活用を継続的に広げていくため、来館者や教育機関との連携も欠かせません。

また、安定して長期運用していくためには、デジタルデータのバックアップや保存管理の徹底も重要な要素です。

TOPPANが支援したバーチャル博物館一覧と成功事例

バーチャル博物館の取り組みは全国各地で進んでおり、来館者増加や教育利用、地域振興への貢献など具体的な成果が報告されています。ここでは、TOPPANが手がけた代表的なバーチャル博物館と、その成功ポイントをご紹介します。

メタバース技術が可能にするバーチャル展示の鑑賞体験

日本美術を国内外にわかりやすく伝えるため、メタバース空間に「バーチャル東京国立博物館」を構築し、国宝全89件を紹介する展覧会「エウレカトーハク!◉89」を企画・制作しました。

具体的には、VR作品やデジタルアーカイブを組み合わせ、展示物を操作したり情景に入り込んだりできる体験型の鑑賞を実現しました。

さらに、現代アーティストによるリスペクトアートをNFT(非代替性トークン)として展示・販売し、文化財保全にも貢献しています。アバターを介して作品世界に没入できるメタバース展示によって、従来にはない新しい鑑賞体験が可能となっています。

参考:日本美術に没入するメタバース展覧会の企画制作|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

オンラインの博物館コンテンツによるアイヌ文化の発信

アイヌ文化の魅力をより広く伝えるため、オンライン博物館コンテンツを整備し、国立アイヌ民族博物館の展示・収蔵資料・映像・解説をVR技術で3D空間に再現しました。

パソコンやスマートフォンから誰でもアクセスできる仕組みを構築し、臨場感のある展示体験を提供しています。収蔵資料は3Dモデル化され、拡大・回転などバーチャルならではの視点で、細部まで鑑賞可能です。

さらに、「オンラインツアー機能」を導入することで、学習旅行や観光の新たな形としての活用も進んでいます。これらの取り組みにより、地域文化の継承と情報発信を支援し、アイヌ文化の理解促進と地域活性化に貢献しています。

参考:オンラインの博物館コンテンツを整備しアイヌ文化を発信

全国初の「障がい者アート」のバーチャル美術館

障がいのあるアーティストの発表機会が限られる中、誰もが芸術に触れられる環境整備が課題となっていました。作品の保存・共有を目的に鳥取県が取り組んだのが、全国初となる「障がい者アート」に特化した県立オンライン美術館の開設です。

内容は、構築したデジタルアーカイブを、実際の展示会場のような臨場感の中で鑑賞できるように「360°バーチャル空間」で展示し、文章・音声・手話映像など多様なバリアフリー解説でサポートするものです。

さらに、高精度撮影や3Dデータ化によって、作品の質感まで忠実に再現しています。本事例は、文化芸術を誰もが享受できる社会づくりに寄与し、障がい者アートの認知拡大と地域文化の振興に大きく貢献する取り組みといえるでしょう。

参考:バリアフリーのバーチャル空間で障がい者アートを鑑賞|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

リアル施設での活用~観光振興に寄与するVRシアター作品『熊本城』

デジタルアーカイブ化した作品は、バーチャル空間だけでなく、リアルの施設でも効果的に活用できます。

観光振興拠点として整備された「桜の馬場・城彩苑」では、熊本城の魅力を効果的に伝える目玉コンテンツの開発が求められていました。そこで、熊本城ミュージアム「わくわく座」において企画・制作されたのが、江戸時代の熊本城を精密に再現したVRシアター作品『熊本城』です。

現地取材や古図面、専門家監修に基づき、焼失前の姿を忠実に復元しています。スタッフによる操作解説や寸劇との連携など、体験型・参加型のシアター運営を取り入れ、臨場感ある体験を提供するとともに、地震被災前後の姿を比較できる映像も制作し、復旧の歩みを伝える新たな観光資源として活用しています。

歴史・文化への理解を深めつつ、地域観光の活性化にも大きく貢献する取り組みです。

参考:熊本城VR(熊本県熊本市)|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

バーチャル博物館がつなぐ新しい来館体験

バーチャル博物館を導入することで、時間や場所にとらわれずに鑑賞できる新しい来館体験を実現できます。展示物のデジタル化やメタバース技術の活用は、臨場感や没入感のある体験を可能にし、教育・観光・地域振興など多様な分野へ波及効果をもたらすものです。

さらに、バリアフリー対応やオンライン公開によって、多様な来館者層へのアクセス拡大も期待できます。継続的な更新と運用を行うことで、常に新鮮な体験を提供できる点も大きな魅力です。

TOPPANでは、さまざまなデジタル文化財ソリューションを通じて、バーチャル博物館を活用した地域文化発信を支援しています。導入をご検討の際には、どうぞお気軽にご相談ください。

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TOPPAN SOCIAL INNOVATION WEB 編集部

参考文献

  • 博物館 DX の推進に関する基本的な考え方|文化庁(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan04/04/pdf/93836101_01.pdf)
  • ミュージアムDX実践ガイド|文化庁(https://museum.bunka.go.jp/wp-content/uploads/2025/06/c36e73181bb060eb67e46f7cc1e21890.pdf)

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