2026.09.07

【大分県佐伯市】総合窓口なしで実現した「書かない窓口」|情報の引き継ぎだけをデジタル化する選択

大分県佐伯市が実現した「書かない窓口」。庁内をどう調整し、現場の声をどう集めたのか。スモールスタートからはじめる、おくやみ手続きのデジタル化について伺いました。

大分県佐伯市 情報推進課 DX推進係 木村 順一 氏

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大切な人を失った家族は、死亡届の提出をはじめ、さまざまな手続きのために市役所を訪れます。大分県佐伯市の場合、関連する部署は8課、手続きは29種類に及びます。慣れない庁舎を回りながら、窓口ごとに同じ氏名と住所を書き続ける負担は小さくないものでした。

佐伯市が令和8年3月に稼働させたおくやみ手続きに関する「書かない窓口」は、この負担に対する一つの答えです。他の自治体では総合窓口を新設する動きもあるなか、各窓口を回る運用は残したまま、情報の引き継ぎだけをデジタル化する仕組みを選びました。基幹システムに手を加えない手法を、どのように構築し、庁内で推進したのでしょうか。

各課で繰り返される手書きによる手続きが出発点

—佐伯市が窓口改革に取り組んだ背景を教えてください。

木村氏:佐伯市は平成17年に1市8町村が合併して誕生しました。現在の人口は約6万2千人ですが、合併時の約8万人から20年でかなり減少しており、高齢化率は県内でも高いほうです。

DX推進係が設置されたのは令和5年で、背景としては市長の方針、そして国や社会全体の流れが大きかったと考えています。自治体としても平均的なタイミングでした。大分県デジタル政策課が中心となり、18市町村と県全体でデジタル化に取り組もうという流れがあり、佐伯市もこの流れに乗ってきたのです。

—多くある手続きのうち、おくやみから着手したのはなぜですか。

髙橋氏:重視したのは、開設時期とサービス水準の2点です。まず開設時期については、梅雨や夏の暑さ、ゴールデンウィークにはある程度慣れた状態で運営できるようになっていたいとの思いから、4月頭のオープンを起点に計画を組みました。

また、サービス水準を重視したというのは、近隣でも同種の施設整備が相次いでおり、運営の質で違いを出す必要性も感じていたためです。市の直営では、どうしても従来の発想の延 長にある施設しかつくれないと考え、DBO方式を選びました。プロポーザルで公募し、フレーベル館を含む2社のコンソーシアムを選定したという経緯です。

市の魅力を随所に盛り込んだ独創的なデザインと、授乳室やおむつ替えスペースといったアメニティの充実、そして安全管理にとどまらない「育ち」の専門性を評価しました。

【コラム】DBO方式とは
DBO(Design-Build-Operate)は、施設の設計・建設・運営を1つの事業者(またはグループ)に一括して委ねる方式。設計段階から運営者の視点を反映できるため、「つくること」と「使い続けること」を切り分けずに検討できます。犬山市は導入検討にあたり、従来方式・DB・DBO・PFIの4方式を比較しました。


—どのような方針で仕組みを検討したのですか。

木村氏:自治体窓口DX SaaSをはじめ、各種基幹系システムとの連携も含めたシステムの構築が本来の理想ではあります。ただ、初期費用やランニング費用ともに高額になる傾向がありますので、既存の仕組みを維持しつつ、可能な限り低コストで実現する方針としました。

検討にあたっては複数の窓口を1か所に集約する、総合窓口の設置も選択肢にはありました。ただ、佐伯市の本庁舎内の都合として、関係する課が複数のフロアに分かれているため、集約するには新たなスペースと人員が必要です。市の規模を考えると、現実的ではありませんでした。そこで、各部署を回っていただく運用は残し、情報の引き継ぎをデジタル化する方法を選びました。

限られた工数と予算でも確実に改革を進めるために

—提案を受けた段階では、どのような点に手応えを感じましたか。

木村氏:情報部門の専門家ではない私でも、TOPPANさんの提案は聞いていて分かりやすい内容でした。国のオンライン申請システム「ぴったりサービス」を土台にするという内容も独自のものでした。ぴったりサービスに登録した手続きのフォームを窓口用に変換して使うため、市として構築するのは窓口部分だけで済みます。基盤は国が整備したシステムをそのまま使うので、費用も抑えられるという説明でした。

・参考: デジタル地方創生サービスカタログ|窓口タブレット申請システム

・
ただ私自身、情報部局に来るまで「ぴったりサービス」は名前を聞いたことがある程度で、申請フォームに携わったこともありませんでしたし、先に導入していた別のオンライン申請ツールのほうが馴染みがあったんです。漠然と「扱いづらそう」というイメージがありました。

その印象が変わったのは、契約後に開いていただいた研修会です。ぴったりサービスへの登録手順を、TOPPANさん流に噛み砕いて説明していただき、この通りに進めれば負担が少なく導入を進められるとお聞きして、心理的ハードルが下がりました。

今はデジタル化の過渡期でツールも乱立しており、どれがいいのか正直分かりません。それにいきなり高額なものを導入しても、それで終わりではありません。維持やバージョンアップにも必ず課題が生じますから、まずは一つずつ積み上げていく方針でよいと思いました。

—実際の運用は、どのような流れになっているのでしょうか。

木村氏:佐伯市では、葬儀社が代行して死亡届を提出するケースが一般的です。その亡くなった方の情報は、市民課が共有エクセルに入力します。このファイルは、システム構築前からすでに内部で運用していたもので、共有サーバー上に置かれています。関係各課がファイル上で情報入力や確認を行う運用です。今回さらに、被保険者情報や手帳番号など、各課の基幹システムで分かる情報も併せて記載してもらう流れにしました。

遺族が来庁するのは、死亡届の提出から3〜4日後というケースが一般的です。まず「保険年金課の窓口へお越しください」と、葬儀社などから渡される書類で周知を図っています。来庁時には、保険年金課の窓口でタブレットに氏名や口座情報などを入力していただき、その後回るべき窓口が記載されたチェックシートと、亡くなった方や喪主などの情報を格納した二次元コードをお渡しします。以降の窓口では、二次元コードを提示することですでに情報が入った状態から申請を始められますので、原則として手書きは必要ありません。

現場の理解と協力が欠かせない。庁内を歩いて声を拾い集める

—各課の協力を取り付けるのは苦労されたのではありませんか。

木村氏:各業務担当は通常業務に忙しくしていますので、新たな取り組みにはどうしても前向きになりにくいものです。その前提は理解しておく必要があります。

今回については、おくやみ手続きにフォーカスした時点で、自ずと関連部署は決まっていましたし、一部の課だけが取り組みから外れるような流れにはなりにくかったのです。私たち担当が間に立ち、個別に各課と対話することで、理解と協力を求めていきました。

社会全体にDX推進の流れがあり、庁内にもそういった雰囲気が出ていたことは後押しになりましたね。説明の際には、住民の方だけでなく、やがては窓口も楽になる可能性があると伝えるように意識していました。明確なメリットが見えなければ、ただ手間が増えるだけと受け止められかねません。

—最初の窓口である保険年金課の役割は大きくなりますね。

木村氏:保険年金課での手続きは、この仕組みの要です。最初に来庁された方から情報を吸い上げ、二次元コードに集約する役割を担っています。本来は保険年金課では必要のない情報も含まれますし、あらゆる受付のためには業務を止める時間が増えます。構造的には「なぜうちの課の負担ばかり増えるのか」と捉えられても不思議ではありません。

しかし、2か所目以降の窓口で修正作業が発生しないのは、最初に保険年金課が情報を集めてくれているからです。他の課には、この効果を積極的に宣伝しました。

また幸いなことに、保険年金課にこの取り組みの意義を感じて、前向きに参加してくれる若手職員がいたのです。「もっとこうした方がいいのではないか」と提案までしてくれるほどで、こうした職員の存在が追い風になるのだと、心強く感じました。

この若手職員は、週1回のTOPPANさんとの定例会に同席し、様式の改良について直接要望を伝えてくれたこともあります。

—忙しい各課の負荷を抑えるため、どのような工夫をしましたか。

木村氏:なるべくこちらから出向いて、会話を増やし、そして課題を把握するように努めました。「気になることがあれば伝えてください」とメールやチャットでお願いしても、伝えること自体に手間と時間が必要です。分かりやすく情報をまとめる、文字で入力するという作業は、通常業務の合間に行うには負担が大きいんです。

ところが対面なら、「報告するほどではないけれど内心そう思っている」程度の感想や要望も、雑談の中から見えてきます。温度感さえ分かれば、私たちがTOPPANさんに連携して改善を図れます。庁内をよく散歩している人だと見られていたかもしれませんが、改善を早めるための工夫だったんです。

これはおくやみの手続きに限定したことで、聞くべき窓口の数もそれほど多くなかったから実行できました。市内各地にある振興局や出張所のような遠隔地が含まれていたら、フォローは一層難しかったと思います。

—TOPPANとのやり取りの中で、特に効果的だったと感じる対応やアプローチはありますか。

木村氏:運用開始までの間、週1回程度の定例オンライン会議に加えて、来庁いただいての打ち合わせや研修、窓口受付のロールプレイなども行っていただきました。そうした場を通じて、実務感覚と現場の声を設計に反映していただけたと思います。

打ち合わせを重ねる中で、担当の皆さんの人柄も分かるようになり、垣根を感じずに話ができるようになりました。それが導入成功の大きな鍵だったと思っています。特に、要である保険年金課との協議の場を柔軟に設けていただいたことは大きかったですね。

未完成でもスタートさせ残りは運用でカバーする

—運用開始からの成果と、見えてきた課題を教えてください。

木村氏:直近で行われた手続きの一例では、保険年金課、高齢者福祉課、税務課の3課を回る所要時間が72分から56分へと約16分短縮しました。該当者が最も多くて、時間もかかる手続きです。すべて手書きで行っていた頃は、トータルで2時間以上かかることも少なくありませんでした。

運用の開始当初は、イレギュラーなケースを除外し、来庁者と喪主が一致しているなど比較的シンプルなものに限定しました。タブレット入力時に、「口座情報を持参していない」「来庁者と喪主の関係が複雑」といったケースまで加味すると、手書き以上に時間を要すると予想できたためです。現在は、ある程度のパターンが把握できたので、画面の遷移や手続きの分岐を整理し、より多様なケースに対応できるようにしています。

ただしKPIとして実施している利用者満足度調査では、手書きの手間が大幅に減ったという意見が多くあった反面、内容確認の画面展開が分かりにくいといった声も届きました。こうした課題は、引き続き調整を進めています。高齢の利用者が多く、タブレット入力にかえって手間がかかる場面も想定されましたので、その際は職員が入力をサポートするなど柔軟な対応を行っています。

—今後の展開、および各自治体の担当者へのメッセージをお願いします。

木村氏:今年度中に、市内にある8つの振興局でも運用を開始する予定です。振興局は職員数の減少により、窓口が1か所ですので、ワンストップ窓口での運用となります。今後は、転入出、出生など、手続きの多い他のライフイベントにも展開を検討中です。この枠組みに載せられるものは、できるだけ同じ形で実現したいと考えています。

住民の方に各フロアの窓口を回っていただく手間は、まだ解消できていません。紙には「〇番窓口へお回りください」と記載していますが、職員でも「15番窓口はこのフロアのどこだったか」などと迷うことがあります。庁内からも、「ここまで仕組みができたのならワンストップ窓口を設置できないか」という声が聞こえるようになりました。一歩を踏み出したからこそできる議論ではないかと思います。

今回はだいたい80点を目指し、残りの20%分は導入後のブラッシュアップや改善で対応していくことにしました。同じような取り組みを検討される自治体でも、最初から100点を目指さないアプローチをおすすめします。自治体職員は、真面目さゆえに、ほとんど発生しないレアケースまで含めて、完全な形を求めがちですが、それでは実現はかなり遅くなります。

書かない窓口は、住民サービスの向上と職員の業務負担軽減を同時に達成する取り組みです。デジタル技術の活用と、人と人とのつながりを両軸に、引き続き改善と拡張を進めていきたいと思っています。

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TOPPAN SOCIAL INNOVATION WEB 編集部

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