2025.12.11

年間100万枚の書類を電子化し、
職員の時間外勤務を削減
~熊本市×TOPPANの業務改革

熊本市総務局 行政管理部業務支援課 野口氏(写真左)、深水氏(写真右)

人口約74万人の政令指定都市、熊本市は、多くの職員が日々の定型業務に追われ、時間外勤務の常態化に悩んでいました。

「今はなんとかなっていても、10年先は厳しい」。この課題を解決すべく、2024年10月に「総合行政事務センター」を開設し、TOPPANのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を活用し、業務改革を推進。そこから半年で、関連業務担当者の時間外勤務を対前年度比で約32%削減することに成功しました。

この取り組みの概要や短期間で成果が表れた理由を、熊本市総務局 行政管理部業務支援課の野口氏、深水氏にお聞きしました。

効率性を追及し「総合行政事務センター」の開設を決定

—総合行政事務センターを設置するまでの経緯を教えてください。

野口氏:熊本市には、約74万人が暮らしています。政令指定都市として、市民や事業者から約4,500種類もの申請手続きを受け付け、市民生活のあらゆる場面を支えている大きな行政機関です。そのような中、少子高齢化や生産年齢人口の減少、デジタル社会への転換など、急速な社会変化により複雑多様化する行政ニーズへの対応の必要性を感じていました。

この課題が一気に顕在化したのが、2016年に起こった熊本地震です。これまでの市役所のあり方には限界があることを痛感させられました。頻発化する自然災害への備えが急務である一方、経済に目を向けると、半導体関連企業が熊本に相次いで進出しており、この状況を確実に活かすためにも、未来への礎づくりを進める必要がありました。

それには、市民の利便性向上を図りつつも、職員の業務効率化を両立させ、持続可能で健全な市政運営を実現する取り組みが必要です。このための施策の一つとして、「定型業務を集約化し効率化させよう」という動きが立ち上がりました。これを受けて設置されたのが、「熊本市総合行政事務センター」でした。

-業務支援課と総合行政事務センターの関わりを教えてください。

野口氏:私たち業務支援課のミッションは、定型業務の集約化、効率化を進めることです。業務範囲としては主に2つで、そのうちの1つが総合行政事務センターの運営です。

深水氏:総合行政事務センターでのアウトソーシング推進は、TOPPANさんに委託して進めています。

-これまでどのような業務上の課題があったのでしょうか。

野口氏:各種申請の処理や交付にかかわる業務は、ほぼすべてを職員で対応しています。行政サービスの増加に伴い業務量は基本的に多くなる一方で、時間外勤務が常態化するなど、ワークライフバランスの改善という点で大きな課題がありました。紙の書類のパンチデータ化など、一部の作業は外部に委託していましたが、委託できていた業務は限定的です。

深水氏:政令指定都市である熊本市は、5つの区に分かれています。たとえば医療費助成に関する手続きは、各区で実施していました。これは区の特性に応じてきめ細やかに対応できるメリットがある一方で、チェック方法や回数など、各区で独自のルールが生まれやすい運用方法です。その結果、類似業務でありながら、市全体では業務の平準化が困難になっていました。

野口氏:大局的には業務改善やマニュアル整備が必須だ、と頭では理解していても、目の前の業務に追われて、それだけの時間が確保できないのが現実です。結果として、制度が複雑・多様化するなかでも、非効率的な運用を繰り返している状態でした

BPRで浮かび上がった効率化の余地と実現可能性

-TOPPANのBPOサービスを知ったきっかけと、委託を決めた理由を教えてください。

野口氏:業務支援課(当時は改革プロジェクト推進課)としては、業務改善の手法やプロセスをさまざま模索し、情報収集をしていました。そのタイミングで、TOPPANさんから業務効率化の提案をいただきました。

提案の内容は、まさに当課で描いていた理想像に近いものでした。特に参考となったのは、同じ政令指定都市である札幌市での支援実績です。実績をもとに説明していただいたので、プロジェクトの全体像が具体的にイメージできました。BPR(業務プロセス改革)の必要性とその効果を事前に提示いただいたことで、費用対効果を把握できたのも良かったです。

改革の推進にあたっては、具体的にどのような業務の集約を目指すのか、それは誰が責任をもって検討するのかも決めなくてはなりません。すでに手一杯という意識がある現場に負担をかけない進め方を一緒に検討してくれたのは、とても心強かったです。

ー総合行政事務センターの発足前に事前調査を実施した目的を教えてください。

野口氏:一言でBPR、業務プロセスの改革と言っても、約4,500種類ある手続きすべてを対象にできるわけではありません。想定どおりの費用対効果が出せるかの確認と、そもそもどれだけの業務量があり、どの部分に負荷がかかっているのかを把握するとともに、それを踏まえた改善手法の検討や委託業務の範囲を整理するための事前調査を実施しました。

深水氏:一定以上の申請件数が見込まれ、かつ集約効果が高い業務の中から11業務を対象に詳細な調査を実施し、うち6業務で明確な効果が出ることを裏づける数値を算出しました。これにより、それまで感覚的だった各窓口における業務負荷が可視化されるとともに、総合行政事務センターへ集約することでどれくらいの業務量が削減できるかも明確にできました。

熊本市総合行政事務センターで対応している6業務(2025年10月現在)

(1)市税振替及び還付口座登録業務
(2)消防用設備等点検報告書受付業務
(3)就学援助業務
(4)こども医療費助成業務
(5)ひとり親家庭等医療費助成業務
(6)重度心身障がい者(児)医療費助成業務

ー当初、現場の職員の方々の反応はいかがでしたか。

野口氏:一言で表現すると、「総論には賛成なものの、各論には反対」という状況でした。業務効率化の必要性は理解しているものの、通常業務に追われて余裕がないこと。また、その結果として部署内の職員が減らされることになるのではないかという不安など、抵抗感があったことは否めません。私も立場は違えど、その心情はよく理解できます。

また、改革の必要性を訴えても、長年の経験から作られたルールや手法を変えることに慎重な姿勢を示す職員が多く、納得を得るのは難しい状況がしばらく続いていたというのが率直なところです。

「将来のために動くなら今」ともに現場に出る体験が実を結ぶ

ーそうした状況で現場の理解を得るために、どのようなことを行ったのでしょうか。

野口氏:将来を見据えて“今”実行することの大切さを粘り強く説いて回りました。たしかに今は業務を回せていますが、人口減少に伴い働き手が確実に減る、10〜20年後には厳しくなるという予測を否定するのは難しいからです。

さらに、現場との調整役になることを期待し、業務支援課(当時は改革プロジェクト推進課)の職員を、こども支援課の「兼務」という形で現場に出向いてもらうことにしました。

深水氏:最初はどのように兼任できるかイメージがつきませんでしたが、とにかく、実際の電話対応や窓口業務を現場の職員と一緒に行うことにしました。その結果、どの業務が効率化のボトルネックになっているか、職員の負担となっているのかを身をもって実感できました。

同じ業務を日々行う仲間として「これが大変だから変えましょう」と呼びかけることで、共感も得られました。内外のどちらからも働きかけることで、これほど反応が違うとは思っていませんでした。

野口氏:現場に入り込んだことで、表面的には見えていなかったマニュアル未整備の課題や、属人化してしまっている業務体制の実態もわかってきました。現場が何に一番苦慮しているのかを正確に把握し、かつ現場にとって「自分ごと化する」という意味で重要な転機になったと思います。

ー業務委託開始に向けてTOPPANと取り組んだことを教えてください。

野口氏:TOPPANさん主導のもと、各業務フローを可視化し、要件の整理を行いました。
具体的には、クラウドサービスを活用した進捗管理システムの構築や、フローごとに作業項目を整理したマニュアルの作成、各区役所でバラバラだった業務フローの統一を行っています。

TOPPANさんには新たなマニュアルの取りまとめを依頼しましたが、市独自のルールや運用方法も含まれているため、外部で品質の高いマニュアルを作成するのは難しいのではないかとの懸念もありました。しかし実際には、現場に対する丁寧なヒアリングを行うことで、短期間で予想以上の品質のものを作成していただき、感謝しています。

ー現場への導入はスムーズでしたか。

深水氏:想定より順調な導入プロセスだったと思います。

委託を開始するには、各業務を行っている部署の協力が不可欠です。業務フローが視覚化された業務マニュアルの作成など TOPPANさんの協力を得ながら、各課への丁寧な説明を行うとともに、窓口部門を含めたフォローアップ体制を整備しました。

総合行政事務センターでの業務スタート以降も、運用方法の見直しやマニュアル改訂など TOPPANさんのサポートのもと、各課に残っている業務の標準化、ルール化を進めることができました。

ー具体的にどのような成果が出たか教えてください。

野口氏:定量的な成果としては、委託を実施した6つの業務全体で、各業務担当者の時間外勤務が対前年比で約32%も削減できました。また、効率化により生み出されたリソースをまちづくり部門や相談部門等に重点配置するなど、職員配置の適正化も進めています。令和7年4月の定期異動においては約15名程度の配置見直し効果があらわれました。

また、クラウドサービスを導入したことで、各区における申請対応の進捗管理が容易になりました。業務の可視化が、業務そのものの効率アップにつながることを実感しています。

深水氏:この結果は、業務構築中から委託後に至るまで、TOPPANさんのきめ細やかなサポートのおかげだと思っています。現場が困ったときは、常にこちらの意図を汲み取った素早いレスポンスをくれました。私たちと同じ目線で現場に入り込み、我々が気づかないところまでカバーする提案をしてくれたことが、今回の成果につながったと思います。

野口氏:TOPPANさんが使用しているコールシステムにも感心させられました。システムを使うと、電話対応時に顧客情報と折衝記録が表示され、市民からの問い合わせに迅速かつ的確な対応ができるようになります。個人的には、電話対応を行う多くの部署で導入したほうがよいと感じています。

ー具体的にフローが大きく見直された業務はなんでしたか。

深水氏:医療費助成手続きの処理業務です。これまでは、年間約100万枚の医療費請求書が郵送で届き、ダンボールで20箱分/月の封筒をすべて手作業で開封し、入力・計算をするというフローをとっていたため、職員の負担が非常に大きい業務でした。

レセプトデータは業務システムに取り込みができないため、長く課題のある業務だったのですが、TOPPANさんが独自ツールを開発し、請求事務の電子化を実現してくれました。その結果、事務処理はオンライン運用となり、膨大な手作業が必要なくなりました。私としては、今回の取組みの最大の成果と感じているほど、極めてインパクトの大きな出来事です。

ー今後の展望についてお聞かせください。

野口氏:まずは、現行取り扱い業務と関連性が高い子育て系の業務を中心に、追加で集約する業務の検討が進んでいます。 継続的にBPRを実施することで、効果が高い業務から少しずつ集約し、確実に業務改善の範囲を増やしていきたいと考えています。

長期的な視点では、多くの定型業務を総合行政事務センターに集約し、生み出されたマンパワーをまちづくりや市民相談に重点配置することで、行政サービス全体の質を高めていきたいと思います。そのための発展的かつ持続的な取り組みとして、TOPPANさんには継続的に業務改善をサポートいただければ幸いです。

—他の自治体へのメッセージをお願いします。

野口氏:社会の変化や人材不足への対応など、熊本市も他の自治体も、根本的に抱える課題は同じではないかと思います。今はなんとか耐えしのぐことはできても、10年、20年経てばさらに人手が減り、現場が回せなくなるかもしれないという不安は共通でしょう。将来を見据えるなら、“今”変えなければならないということを強くお伝えしたいと思います。

熊本市だけでなく、多くの自治体がTOPPANさんの支援のもと、業務の集約を実現されています。まずは他の自治体で実施している業務から部分的に導入してみるのも手ではないかと思います。熊本市ではすでに多くの自治体からの総合行政事務センターの視察を受け入れており、お問い合わせも歓迎しますので、是非参考にしていただければと思います。

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