2026.04.10

【ウェビナーレポート】地域の記憶、どう活かす?地域活性化へ繋げるデジタルアーカイブ

2026年2月17日にTOPPANが主催したオンラインセミナー「地域の記憶、どう活かす?~つくる、つかう、たのしむ 地域活性化へ繋げるデジタルアーカイブ」の内容をお届けします。

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2026年に始動した「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」では、これまでのような資料のデジタル化・保存にとどまらない「利活用」が、自治体に強く求められています。
今回は、地域の記憶をデジタルアーカイブ化することで、どのように地域活性化につなげることができるのか、東京大学大学院 情報学環の渡邉英徳教授をお招きし、デジタルアーカイブによる地域づくりや活用の可能性についてお話をうかがいました。

さらに、TOPPAN株式会社 加藤健吾から、数多くのアーカイブ事業を支援してきた経験より、自治体のデジタルアーカイブ構築・活用事例もご紹介させていただきました。
(ナビゲーター:TOPPAN株式会社 寺師太郎)

現代の街並みと原爆投下当時をつなぐ「ヒロシマ・アーカイブ」

寺師:近年は「デジタルアーカイブ」という言葉が一般的になってきましたが、やはり今後注目されていくのはどう「活用」していくかという点だと思います。渡邉教授が手がけたデジタルアーカイブの活用事例をご紹介いただけますか。

渡邉教授:僕自身は、戦争や自然災害など、災いの記憶を扱うことを専門にしてきました。今日はなかでも地域との連携に特色がある事例をお見せしたいと思います。

まずご紹介するのは、「ヒロシマ・アーカイブ」というプロジェクトです。

出典:https://hiroshima.mapping.jp/index_jp.html

渡邉教授:現在の広島の街並みが3Dで表示されていますが、上空には原爆の火球を表す赤い球体、地上には顔写真や風景写真のアイコンがたくさん浮かんでいます。顔写真のアイコンは、原爆の投下時刻に、その方がどこにいたのかを示したものです。

出典:https://hiroshima.mapping.jp/index_jp.html

渡邉教授:例えば、制服を着た若い女性の写真が集まっている場所には、当時女学校がありました。クリックしてみると、その方の被爆時の行動やその後の体験の記録を確認することができます。

それから、表示されている街並みは、戦中地図や現代地図にも切り替えが可能です。切り替えてみると、同じ場所に今でも「広島女学院中学校・高等学校」があることがわかります。

出典:https://hiroshima.mapping.jp/index_jp.html

渡邉教授:これらの写真や証言などは、もともと「広島平和記念資料館 平和データベース」に収められていた資料です。

アーカイブ化された膨大な資料を、デジタルアースの上にのせることでわかりやすいよう整理したのが「ヒロシマ・アーカイブ」という位置づけになります。

寺師:なるほど。ちなみに、このアーカイブのもととなる取材は、どなたがされているんでしょうか。

渡邉教授:実はそこが、もう1つの大事なポイントです。「ヒロシマ・アーカイブ」には、広島女学院高等学校の生徒さんがインタビューして集めた資料が、40点ほど掲載されています。

このアーカイブをつくる過程で、生徒さんたちが被爆者の方に、一緒にデジタルアーカイブを見ながら当時の体験をお聞きする場をつくりました。非常に穏やかな雰囲気でお話がうかがえたのは、地元の若者が主体となって取材を行ったことが大きな理由です。

地元の人たちのつながりをつくることで、自然にコミュニティが形成され、活動を通じてさらにデータが追加されていく。その両輪がかみあったのがヒロシマ・アーカイブと言えます。

寺師:ヒロシマ・アーカイブの制作に携わった生徒さんのなかには、東京に出て渡邉研で学んだ後、地元広島にもどって就職した方もいるそうですね。

渡邉教授:地域発のデジタルアーカイブづくりに携わることで、地域の魅力や自分のミッションに気づく学生は多いです。そういった人が地元に帰って就職をしたり、東京で就職したとしても地域とのつながりを持ち続けるという効果も出ているようですね。

地元紙との連携で実現した「忘れない~震災犠牲者の行動記録」

寺師:こうした地域の記憶をアーカイブ化するときは、メディアとの連携も必要になってくると思いますが、そういった事例もご紹介いただけますか。

渡邉教授:2016年に、岩手の地元紙である岩手日報さんと制作した「震災犠牲者の行動記録」があります。

出典:https://iwate.mapping.jp/index_jp.html

渡邉教授:映っているのは、東日本大震災の被災直後の陸前高田市の航空写真です。この上に、震災で亡くなった方々がどのように移動していたのかをアニメーションで再現しました。

一人ひとりのアイコンをクリックすると、たとえば「津波が堤防を越えたという放送を聞いて車で逃げた」「夫婦でそろって避難した」といった経緯も確認できます。

犠牲になった方がどこからどのように移動したのか、居場所を調査したのが岩手日報さんでした。震災から5年をかけてご遺族の方に取材をし、集めた情報がもとになっています。

出典:https://iwate.mapping.jp/index_jp.html

渡邉教授:地図を切り替えると、現在は復興が進み、整地されて新しい町に生まれ変わっています。盛り土がされるなど高台への移転が進んでいますが、当時の行動記録を見ると、多くの方が低地の避難場所へ逃げ込んでいる様子が見てとれます。

岩手日報さんがこのデジタルアーカイブの制作を通じて分析・提言したとおり、津波発生時に命を守るためには「避難場所を過信せず、少しでも高い場所へ」行くことが必要だったことがよくわかります。亡くなった方々のデータが、今を生きる私たちに示唆を与えてくださるんですね。

そしてこうした詳細なデータが集められたのは、長年地元に寄り添ってきた岩手日報さんの協力があってこそです。たとえば東京大学の研究者としてご遺族に取材を行っても、つらいことをお話いただけるような信頼関係の構築には時間がかかります。5年にわたって5,000人以上の方に取材をするような、大量のデータを集めることもできませんでした。

マインクラフトの活用で地元小学生と取り組むアーカイブ利活用

寺師アーカイブの利活用には、地元の方々との関係性が重要ということがよくわかりました。ほかにも地元の方々と一緒に取り組んだ事例があればご紹介いただけますか。

渡邉教授:3年前から取り組んでいるのが、「教育版マインクラフトで長崎の歴史を学ぼう」と題した、小学生向けの平和学習プロジェクトです。被爆三世でもある渡邉研の大学院生が中心となって進めていて、広島でも同じ企画が開催されました。

出典:https://www.youtube.com/watch?v=pK7l9H2Cn90

渡邉教授:ご存知の方も多いと思いますが、マインクラフトはデジタル空間でブロック遊びができるゲームです。このゲームで、地元の子どもたちに広島・長崎の被爆前の街並みを再現してもらいました。チームに分かれて、それぞれ城山国民学校や浦上天主堂といった建物を作ってもらうんです。

寺師:もととなる資料は、やはり地元のアーカイブですか?

渡邉教授:そのとおりです。長崎大学から、被災前の日常がわかる資料を提供していただきました。それとは別に、子どもたちが戦争経験者の方に直接お話を聞く機会も設け、再現する建物へ反映しています。

渡邉教授:たとえば旧長崎大学附属大学病院を担当したチームは、建物のまわりに桜の木を植えました。これは、当時病院にお勤めだった方の「桜がきれいだった」という思い出に応えて作られたものです。

アーカイブに保存されている資料はもちろん、当時を知る人にお話をうかがったからこそ再現できた光景と言えます。

また、これは熟考した末の仕組みなのですが、建物の完成後には街の上空に浮かぶ原爆の火球も再現しました。子ども達には地上からそれを眺め、自分たちが作り上げた街がどうなってしまうのかに思いを馳せてもらいました。

渡邉教授:マインクラフトを活用した試みは非常に好評で、空襲で被害を受けた他の自治体でも同様のワークショップを開催しています。

寺師:「自分たちの地域でも開催したい」という自治体の方もいらっしゃると思うのですが、その場合は渡邉研の方に来ていただけるんでしょうか?

渡邉教授:はい。まずはわれわれが伴走してやり方を共有しますが、長岡や長崎では、地元の学生さんにもチームに入ってもらい、徐々に地域の方だけで自走できることを目指しています。

寺師:地域で自走する仕組みができていくと、アーカイブの利活用もより広がっていきそうですね。

渡邉教授:そうですね。実はヒロシマ・アーカイブのプロジェクトは、はじめ平和記念資料館に協力を断られてしまった経緯がありました。東京の大学が広島でデジタルアーカイブに取り組む必然性がないので、共感が得られなかったんです。「地元の高校生が平和学習の一環として取り組む」というストーリーが加わったことで実現したプロジェクトでした。

寺師:アーカイブ利活用の出口が明確になることが重要なんですね。

渡邉教授アーカイブは単にデジタル化するだけではなく、地元の方を巻き込んでそれを活用する場をつくることが大切だと考えています。

地元の若者が主体となったデジタルアーカイブ活用事例

寺師:アーカイブをまずは教育に活用しようと考えるケースも多いと思います。そういった事例もお話しいただけますか。

渡邉教授:渡邉研究室の院生で、同志社大学の准教授でもある大井将生さんの取り組みがあります。彼はジャパンサーチに収蔵されている資料を使った探究学習の仕組みを開発しました。

探究学習では、「問い」を立てることが重要とされています。子どもたちが資料からどのように「問い」を創発していくのかを、ワークショップを通して学べる仕組みにしたわけです。非常に好評で、大井さんのメソッドがいろいろなところで使われつつあります。

渡邉教授:もうひとつご紹介できるのが、長崎東高校の生徒による戦前写真のカラー化プロジェクトです。僕自身も作家としてモノクロ写真のカラー化に取り組んできましたが、生徒さんたちはAIを使って自主的にカラー化を進めました。

やはり地元の若者が主体となって取り組むことで、社会全体がそれを支えようとする動きが出てきます。そのためには、若者が楽しんで取り組めるよう、たとえばマインクラフトであったり、AIの活用であったりといった興味をひくコンテンツを組み合わせることが大切です。

寺師:これまで「アーカイブ」というと専門家や学生が調べものに利用するものというイメージがありましたが、本日お話をうかがって、誰もが使いやすいものへと進化してきていることを改めて感じました。

渡邉教授僕らのミッションは記憶を貯めることと、そしてその記憶を子どもたちが興味を持って楽しく取り組めるメディアとして発信し、未来へつなぐことだと考えています。

寺師:渡邉教授、本日は貴重なお話をありがとうございました。

TOPPANのデジタルアーカイブ支援事例

加藤:ここからは、TOPPAN株式会社の加藤健吾より、TOPPANが支援させていただいた自治体様のデジタルアーカイブ事例を2つご紹介させていただきます。

渋谷区|広報資料をデジタルアーカイブ化し区の魅力を発信

加藤:はじめにご紹介するのは、渋谷区様の広報資料デジタルアーカイブ事業「SHIBUYA CITY RECORD」です。区制施行90周年をきっかけにデジタルアーカイブが構築され、それを発信していくためのサイトは、渋谷区様の歩みや魅力を国内外にどう伝えていくかという視点に重きを置いた内容になっています。

出典:https://shibuya-city-record.tokyo/

加藤:これまで紙媒体で保管されていた広報紙を、全文OCRでテキスト化。さらに1万点を超える広報写真を高精細にデジタル化し、特設サイトで公開しました。国内外に区の魅力が伝わるよう、サイトの設計は機能性・デザイン性の両立にこだわっています

TOPページでは、偶然の出会いも楽しめるよう、ランダムで広報写真が表示される「ピックアップ写真」のセクションを設けました。

出典:https://shibuya-city-record.tokyo/

加藤:またこのアーカイブは研究分野だけでなく、教育や観光分野での活用も想定しており、エリア・年代・キーワードなどで資料の検索が可能です。

出典:https://shibuya-city-record.tokyo/

加藤:アーカイブ資料とは別に、渋谷区にゆかりのある方へのインタビューを掲載した「SHIBUYA CITY STORY」というコンテンツもあります。これにより、アーカイブに物語性を持たせている点も特徴です。

参考:自治体の周年を機に歴史を次世代へ。渋谷区が構築する次世代デジタルアーカイブ

参考:アーカイブ構築・文化財コミュニケーション支援サービス

石川県|能登半島地震の資料を検索しやすい形で公開

加藤:2つ目の事例として、石川県様の「能登半島地震アーカイブ 震災の記憶・復興の記録」をご紹介させていただきます。

出典:https://noto-archive.pref.ishikawa.lg.jp/

加藤:このアーカイブは、2024年の能登半島地震における被害状況や、復興・復旧の過程で得られた教訓を記録し、将来の防災対策や学術研究、防災学習に活かすことを目的に構築されました。

震災関連資料の収集・デジタル化・メタデータ付与を行い、利用者が検索・閲覧・ダウンロードしやすい仕組みのサイトとなっています。こちらもカテゴリ別や地域別、時間別などで記録を検索することが可能です。

またサイト内では、「ビジュアルコンテンツ」として被災地の写真・映像をもとに再現した3Dモデルデモも公開しています。こちらは、本日ご登壇いただいた渡邉教授にご協力をいただき制作されました。

出典:https://noto-archive.pref.ishikawa.lg.jp/model/

加藤:なお、アーカイブ掲載されている画像には、プライバシー保護の観点からマスキングポリシーを定めています。例えば一般の方や個人情報の映り込んでいる写真は、公開前にマスキング処理が行われています。

また、市民・県民の方から資料提供を受け付けることのできる震災関連の写真・映像提供フォームを設け、サイトローンチ後も継続してアーカイブを育てていく設計になっている点もポイントです。

参考:デジタルアーカイブによる能登半島地震の記憶継承と発信

TOPPANのデジタルアーカイブ対応領域

加藤:最後に、私たちTOPPANが対応している領域について簡単にご説明させていただきます。

加藤:TOPPANでは、資料をデジタル化して終わりではなく、継続的に活用・運用できることを重視しています。調査・企画・設計などのコンサルティングから、資料調査・目録作成といった実作業、データベース構築、人材育成や利活用施策など一気通貫でのご支援が可能です。

「なにから始めればいいかわからない」「予算やスケジュール感が見えない」といったお悩みにも段階的に対応できる点が私たちの強みと考えておりますので、デジタルアーカイブに関するお悩みがありましたらぜひお気軽にご相談ください。

質疑応答

セミナーを通じて視聴者の方からいただいた質問にお答えいただきました。

ヒロシマ・アーカイブで使用しているツールはなんですか?

渡邉教授:ヒロシマ・アーカイブは、サーバーサイドで凝ったことをしていないんです。普通のWebページと同じように静的なファイルだけで組んでいて、全体は100MBもありません。取材動画はYouTubeの埋め込みです。ソースコードは、開発プラットフォームのGitHubで公開・管理しているので、今日までに200件以上改良が加えられています。

AIについては、コードの改良を含む開発工数の削減や、写真のカラー化のようなデザインの部分で活用していますね。実は今日の講演前にも、大きな画面でスムーズに動くようAIと相談して微調整を行っていました。

デジタルアーカイブ利活用の手段は、構築段階から考えておく必要がありますか?

渡邉教授:ヒロシマ・アーカイブの事例では、資料の収集から地元の生徒さんに参加してもらったことに大きな意味がありました。できたものを利用するだけだと受け身になりがちですが、作り手として参加することで「こんなものを作ったんだよ」と積極的にアーカイブを広めてくれるようになります。作るときから地元の人を巻き込むのが重要だと考えています。

デジタルアーカイブの収益化モデルはありますか?

寺師:私が取り組んでいるアーカイブ事業では、「写真を使わせてほしい」というお申し出に対して手数料として収益が発生することがあります。

渡邉教授:僕たちは東京大学基金という制度を利用しています。企業さんはもちろん、個人の方からもご寄付をいただきました。自治体もそうだと思いますが、大学の研究費だけではどうしても予算に限りがあるので、持続的な運用を見据えてファンドを作っておくのが1つの方法です。

それから、長崎の戦前写真カラー化のプロジェクトでは、生徒さんが写真集の出版に必要な費用をクラウドファンディングで募り、目標額を達成しました。

アーカイブ活動そのものの事業化は難しいですが、多くの人たちの応援を受け止めることができる仕組みを作っておくというのもひとつの手段だと思います。

デジタルアーカイブの公開まではどのくらいの期間がかかりますか?

加藤:資料の量や利活用の方法によって大きく変わります。例えば渋谷区様に関しては、数年間継続しているプロジェクトです。できれば長期的に考えていただけると、充実したコンテンツにしやすいと思います。

ご予算・ご要望に応じたご提案をさせていただきますので、詳細をご相談いただけますと幸いです

写真等のモノだけでなく、記憶や想いをアーカイブする方法はありますか?

渡邉教授:たとえば「東日本大震災ツイートマッピング」は、震災が起きた2011年3月11日にTwitter(現在のX)で投稿された24時間分のツイートを網羅して地図上に表示したアーカイブです。

眺めると、「ビル風が強い」「歩いて帰ることにした」「道わかんない」といった、その瞬間感じた思いを反映したリアルな空気感が伝わってきますよね。

出典:https://tweet.mapping.jp/

渡邉教授:こうしたほかの人の投稿を見ることがトリガーになって、この日この中の一人だった自分の記憶が呼び起こされることもあるかもしれません。

寺師:今まさに、ビルの地下1階でエレベーターがガンガン音を立てているのを聞いた記憶を思い出しました。

渡邉教授:このように、匿名化したSNSの投稿を記録するという形であれば記憶の保存も可能だと思います。

まとめ

東京大学大学院 情報学環の渡邉英徳教授より、デジタルアーカイブによる地域づくりの事例や活用のポイントについてお話しいただきました。デジタルアーカイブの活用は、地域との連携がカギとなります。地元の方々を巻き込みながら、新たな人と人とのつながりを創出し、広く活用されるデジタルアーカイブを目指しましょう。

TOPPANでは、多くの人に見て活用してもらえるデジタルアーカイブ構築を支援しております。事前のコンサルティングから資料整理、デジタル化、データベース構築、利活用までをトータルにサポートいたしますので、アーカイブにお悩みの際はぜひお気軽にご相談ください。

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TOPPAN SOCIAL INNOVATION WEB 編集部

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