2026.01.29

デジタルアーカイブ戦略とは?データの「保存」から「利活用」へ

2025年に公表された「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」では、文化資源の保存と利活用の両立が掲げられています。本記事では、その要点と自治体等での活用可能性を解説します。

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アナログ資料の散逸や、担当者交代による知識の断絶は、地方自治体や文化施設、研究機関が長年抱えてきた共通の課題です。

こうした状況を背景に、国は2025年に「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」を公表し、文化資源の保存と利活用を両立させる社会の実現を掲げました。デジタルアーカイブとは、文化資産や学術資料等の情報をデジタル化し、体系的に収集・保存するとともに、広く提供・活用するための仕組みの総体を指します。

本記事では、国が推進するデジタルアーカイブ戦略の要点を整理し、地方自治体をはじめとする関係機関での活用の可能性について解説します。

この記事で分かること

・「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」の全体像
・地域資源アーカイブの必要性と優先理由
・地方自治体での活用事例と実行時の課題・対策

デジタルアーカイブ戦略とは

デジタルアーカイブ戦略とは、国が掲げる「文化資源を日常の中で活用できる社会像」を実現するための方針です。特に2025年5月に策定された「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」は、これまでの保存中心の取り組みから一歩進み、観光・教育・研究等幅広い分野でデジタルアーカイブを利活用することを目的としています。

国が整備する統合的な検索基盤「Japan Search(ジャパンサーチ)※」を中核に、分野や組織を超えた連携を進める点が特徴です。

※ Japan Search:日本国内の幅広い分野のデジタルアーカイブを検索・閲覧・活用するためのプラットフォーム。

日本のデジタルアーカイブ戦略

日本におけるデジタルアーカイブの取り組みは、「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」の策定以前から、段階的に進められてきました。

1990年代の世界情報基盤(Global Information Infrastructure/GII)構想を背景として、各国で情報資源をデジタル化・共有する動きが広がりました。日本でも美術館や図書館、大学等が主体となり、個別にデジタルアーカイブの構築が進められてきた経緯があります。

しかし、機関ごとに運営されるアーカイブは相互連携が十分とはいえず、分野を横断した検索や活用が難しいという課題がありました。こうした状況を踏まえ、分野横断的な連携を強化し、アーカイブの利活用を社会全体で進めるために策定されたのが「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」です。

同戦略では、官民連携のもと、デジタルアーカイブが日常に溶け込んだ創造的な社会の実現を目指しています。

「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」の全体像

「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」では、デジタルアーカイブを通じて実現すべき社会像と、そのために講じる基本的な施策の方向性が示されています。ここでは、その全体像と、具体的な基本的施策を解説します。

目指す方向性

まずは、同戦略が描くデジタルアーカイブの方向性を、4つの観点から見ていきましょう。

記録・記憶の継承と再構築

デジタルアーカイブ戦略では、地域や分野ごとに散在してきた資料を体系的に整理・統合し、文化や記憶を将来世代へ継承していくことが重視されています。単なる年代順の保存にとどまらず、背景や成り立ちといった歴史的文脈を踏まえて再構成することで、資料の価値をより明確にする考え方です。

コミュニティを支える共通知識基盤

教育・研究・観光・地域活動等、さまざまな分野で活用できる文化情報を横断的に整理し、誰もが検索・閲覧しやすい共通知識基盤の整備が掲げられています。地域内外の人々が知識を共有し、学びや活動に活かせる環境の構築を目指すものです。

新たな社会ネットワークの形成

デジタルアーカイブを媒介として、住民・研究者・企業・行政等多様な主体が資料を通じてつながることが想定されています。こうした交流や協働の促進により、新たな価値創出や地域活性化につながるネットワーク形成を図っています。

日本のソフトパワーの発信

文化資源を多言語で発信し、国際標準に対応した形で公開することで、日本文化への理解を海外の研究者や観光客に広げる方針が示されています。デジタルアーカイブを通じて、日本の歴史や文化の魅力を世界に発信し、国際的な評価向上につなげるのがねらいです。

基本的施策

「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」では、戦略を具体的に進めるため、デジタルアーカイブの整備および利活用に向けた基本的な施策が示されています。ここでは、「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」の基本的施策を、制度・基盤・人材の各側面から解説します。

デジタルアーカイブの推進に係る基盤整備

デジタルアーカイブを円滑に推進するため、資料の整理方法や情報項目の統一、データ形式の標準化等が重要な施策として位置づけられています。各資料について、名称や年代、内容といった基本情報を整理し、後から検索・活用しやすい状態で管理する体制を構築することが重要です。

ジャパンサーチの整備・維持管理

国が運営する統合検索プラットフォーム「ジャパンサーチ」については、継続的な整備と維持管理が進められています。自治体や文化機関が保有するデジタルアーカイブを連携させることで、分野や組織を横断した資料検索を可能にし、利用者の利便性向上と資料活用の促進を図る考え方です。

海外発信力の強化

文化資源を海外に向けて発信するため、多言語対応や国際標準に沿った情報提供の強化が掲げられています。海外の研究者や観光客が、日本の文化資料にアクセスしやすい環境を整えることで、国際的な理解促進や文化交流の拡大につなげる狙いがあります。

人材育成・普及啓発

デジタルアーカイブを担う人材の育成に向けて、研修や情報提供を通じた普及啓発の推進が示されています。特定の担当者に業務が集中することを避けるため、地方自治体職員の担当交代を前提とした知識共有や、引き継ぎ体制の整備も重要な施策です。

国・地方公共団体・大学等・民間事業者等の役割

デジタルアーカイブの推進には、国・地方公共団体・大学等の研究機関、民間事業者といった関係主体が、それぞれの役割を担いながら有機的に連携することが求められています。

国の役割は方向性やルールの整備であり、地方自治体の役割は地域特性を考慮した施策の策定と実施を進めることです。

大学等は専門的知見や研究成果の提供を通じてアーカイブの質を高め、民間事業者はデジタル化やシステム構築等の実務面を支援する役割を担います。

こうした背景のもと、TOPPANでは2月に、自治体や美術館・博物館、民間事業者を対象としたオンラインセミナーを開催します。デジタルアーカイブの活用に向けた具体的なヒントや実際のアーカイブ推進に向けたステップなどを共有する場として、ぜひ本セミナーをご活用ください。

“地域資源”はデジタルアーカイブ戦略における優先分野

「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」では、特に優先的に取り組む分野として「地域資源」が位置づけられています。地域に根ざした資料や文化財は、その土地ならではの歴史や記憶を伝える重要な資源である一方、人口減少による保管体制の弱体化や、管理の属人化といった課題を抱えており、散逸リスクが高いことが実情です。

その一方で、地域資源は観光振興や教育、移住促進等への利活用ニーズが大きく、デジタルアーカイブ化によって新たな価値を生み出すことが期待されています。地域資源の整理・公開を進めることは、単なる保存にとどまらず、地域の魅力を可視化し、地域価値の向上につなげる取り組みとして重要です。

TOPPANでは、文化財をはじめとする地域資源について、調査・整理からデジタル化、利活用までを一貫して支援する取り組みを進めています。

アーカイブ構築・文化財コミュニケーション支援サービス|TOPPAN BiZ

地方自治体におけるデジタルアーカイブ活用事例

全国の地方自治体では、地域資源をデジタルアーカイブ化し、観光や教育等に活用する取り組みが進められています。ここでは、TOPPANが支援した代表的な活用事例をご紹介します。

震災関連資料のデジタル化・公開で記憶の風化を防ぐ

震災から時間が経過する中で、当時の写真や証言、記録資料が散逸してしまうリスクが高まっています。こうした課題に対し、岩手県庁 岩手県復興局では、震災に関する貴重な資料を収集・デジタル化し、長期的に保存・公開するためのアーカイブ構築を進めました。

デジタル化された資料は、単なる記録にとどまらず、防災教育や教訓の継承、さらには地域交流を促す基盤として活用できます。資料の散逸を防ぎ、記憶を長期保存することで、次世代の安全な社会づくりに寄与しています。

参考:地震の記憶を記録する「震災デジタルアーカイブ」|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

地域の暮らしと文化を引き継ぐ資料をデジタル化

地域の歩みを物語る古写真やホームビデオ等は、住民の生活に根ざした貴重な文化資産です。京都市伏見区深草地域では、こうした資料を住民参加型で収集し、デジタルアーカイブとして整理・保存する取り組みを行いました。

また、デジタル化した資料を保存するだけでなく、ワークショップでの活用やWebを通じた情報発信も実施。多世代に深草地域の文化や歴史を知ってもらうきっかけとなりました。住民自らが地域の魅力を再発見し、郷土愛を育むきっかけづくりにつながっている点も、この取り組みの成果の一つです。

参考:未来へ紡ぐデジタルアーカイブで地域の文化を保存・継承・創造事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

歴史資料のデジタルデータを活用した観光誘客

地域の文化財や古文書等の歴史資料をデジタル化することで、専門知識がなくてもその価値を直感的に理解できるようになります。高精細な画像やVR・AR技術を用いた歴史的価値の「可視化」は、観光客にとって魅力的なコンテンツです

愛媛県松山市では、道後湯之町が保管する歴史資料をデータベース化するとともに、デジタルデータを地図情報と連携させることで、地域内の周遊動線の整備や街歩きアプリを開発。こうしたデジタルデータの活用は、観光体験の質を高め、地域全体の回遊性や満足度向上に貢献しています。

参考:文化資産のデジタルアーカイブを活用した観光施策|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

失われた城郭のデジタル復元で観光資源としての魅力を向上

現在は失われてしまった城郭や歴史的建造物も、地域にとってはかけがえのない文化資産です。

島根県津和野町では、失われた津和野城の城郭をデジタル復元。VRアプリで、往時の姿を目に見える形で再現するという、新しい観光体験を提供しています。こうした取り組みは観光客を惹きつけるだけでなく、歴史教育の教材として活用できる点も特徴です。

地域の誇りを可視化し、観光客数増加と教育的価値の両立を図る取り組みとして、高い効果が期待されています。

参考:観光DXで江戸時代のお城を復元し、周遊観光を促進|事例紹介|TOPPAN SOCIAL INNOVATION

デジタルアーカイブ戦略の推進における課題と対策

デジタルアーカイブの推進にあたっては、資料の散逸や管理負荷といった課題への対応が欠かせません。特に、著作権の処理や、検索に欠かせないメタデータ※の作成は、専門的な知識や工数を要し、現場の大きな負担となるでしょう。

こうした課題を解決するには、国のガイドラインを参考にした優先順位の明確化が有効です。公開可能な資料から段階的に整備を進め、ジャパンサーチ等と連携することで、検索性や利便性の向上が期待できます。

また、デジタル化や資料整理といった専門知性の高い業務については、外部パートナーの活用も現実的な選択肢です。業務負荷の軽減と効率化を図りながら、継続的に運用できる体制の構築が、デジタルアーカイブ戦略を着実に推進する上で重要です。

※メタデータ:そのデータが何であるかを説明し、検索や管理をしやすくするためのデータ。資料のタイトルや作成者、公開条件など。

デジタルアーカイブによる新たな価値創出のために

デジタルアーカイブ戦略は、資料を保存するだけでなく、共有・活用を通じて新たな価値を生み出す取り組みです。適切な保存環境の構築と利活用を見据えた設計により、貴重な資料は管理対象にとどまらず、地域の魅力や歴史を伝える資源として幅広い分野で活かすことが可能になります。

TOPPANでは、資料の調査・整理からデジタル化、システム構築、公開後の利活用企画まで、一貫した支援を提供しています。貴重な資料の劣化対策や災害への備えを検討している場合や、新たな活用方法に課題を感じている方は、ぜひご相談ください。

アーカイブ構築・文化財コミュニケーション支援サービス|TOPPAN BiZ

TOPPAN SOCIAL INNOVATION WEB 編集部

参考文献

  • 「デジタルアーカイブ入門」(柳与志夫、 渡邉英徳)|勉誠社
  • デジタルアーカイブ推進のこれまでの取組と今後の進め方について|内閣府知的財産戦略推進事務局(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/kentoukai/dai1/siryou2.pdf)
  • デジタルアーカイブ戦略2026-2030|デジタルアーカイブ戦略懇談会・デジタルアーカイブ推進に関する検討会決定(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/pdf/archive_2026-2030.pdf)

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