2026.08.06

自治体でのAI活用法|主な活用シーンと業務改善につながった導入事例

自治体におけるAI導入の背景や主な活用事例、先行自治体の取り組み、導入時のリスクと対策を解説。安全かつ効果的にAIを活用し、自治体DXを推進するポイントを紹介します。

少子高齢化による人手不足や、住民ニーズの多様化を背景に、自治体ではAIを活用した業務改革への期待が高まっています。一方で、導入にあたっては、情報漏えいや誤情報の生成といったリスクへの理解と対策が必要です。

本記事では、自治体でAI導入が進んでいる背景と、生成AIやAI-OCRなどの主な活用シーン、TOPPANの関連事例、導入時に押さえておきたいリスク、安全かつ効果的な活用のポイントを解説します。

この記事でわかること

・自治体におけるAI活用の概要
・自治体でのAI活用を含むDX事例
・AI導入のリスクとポイント



自治体がAIを導入する背景

人口減少や少子高齢化が進む中、限られた人員で多様化・高度化する行政ニーズに対応し、質の高い住民サービスを維持することは、自治体の大きな課題です。その解決策としてAIの活用に注目が集まっており、国のDX推進も後押しとなって、導入を検討・実践する自治体が増えています。

ここでは、自治体でAI導入が求められている背景について解説します。

深刻な人手不足

少子高齢化や人口減少の進行にともない、人手不足は多くの自治体において深刻化している課題です。地方公共団体の職員数は1994年をピークに減少し、近年は横ばいから微増傾向にあります。また、採用試験の受験者減少や若手職員の確保・定着も課題となっていることから、人材確保は一層困難になっています。

限られた人員で行政サービスを維持し、職員のリソースをコア業務へ集中させるためには、ノンコア業務の効率化や職員の負担軽減が急務です。こうした人手不足への対応策として、AIの活用が期待されています。

住民ニーズの多様化と職員の業務量増加

オンラインサービスの普及による住民ニーズの多様化の影響もあり、自治体に求められる行政サービスは複雑化・高度化しています。これにより、窓口での相談対応や各種申請の処理など職員の業務量は増加し、負担も大きくなっています。

AIを活用して定型業務を効率化し、住民対応や政策立案などのコア業務へリソースを集中できる体制づくりが必要です。

国が主導する自治体DXの推進

国は自治体DXを重点施策として推進し、AIを含むデジタル技術の活用を後押ししています。

自治体においては、まずは、今後急速な人口減少が見込まれる中、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供していくために、業務の見直しと並行して、
・自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、
・デジタル技術や AI 等の活用により業務効率化を図り、職員の負担軽減とあわせて、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく
ことが求められるとともに、DX を推進するに当たっては、住民等とその意義を共有しながら進めていくことも重要となる。
出典元:自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画【第 5.1 版】

近年は、自治体向けのAI導入・活用ガイドブックや生成AI利活用ガイドラインなども整備され、導入効果だけでなく、情報セキュリティやリスク管理、運用ルールの整備の重要性も示されています

こうした動きを受け、業務効率化や住民サービスの向上を目的に、DXの一環としてAIの導入・実証に取り組む自治体が増えています。今後は国の方針をふまえつつ、各自治体の業務や課題に適したAI活用を進めることが重要です。

参考:自治体における AI活用・導入ガイドブック

行政の進化と革新のための生成AIの調達·利活用に係るガイドライン(第2.0版)

自治体DXの次なるステージへ|住民サービスの変革とAI活用で描く行政の未来

自治体におけるAI活用シーン例

自治体では、生成AIやAI-OCR、AIチャットボットなど、多様なAI技術の活用が進んでいます。AIに期待されるのは、文書作成やデータ入力といった庁内業務の効率化から、住民への問い合わせ対応や多言語対応まで、職員の負担軽減と行政サービスの向上を両立させる手段としての幅広い活用です。

ここでは、自治体におけるAI活用シーンの例をご紹介します。

住民サービスの向上

AIは、住民からの問い合わせ対応や各種手続きの案内など、住民サービスのさまざまな場面で活用されています。職員の負担を軽減しながら、迅速かつ質の高い行政サービスの提供を実現できる点が大きなメリットです。

AIチャットボットによる住民窓口対応

AIチャットボットは、AIが住民からの質問内容を理解し、適切な回答を自動で提供するシステムです。自治体のホームページやLINEなどにAIチャットボットを導入することで、各種手続きや子育て・福祉制度などに関するよくある質問へ24時間365日対応できるようになります

定型的な問い合わせはAIが対応し、複雑な相談は職員へ引き継ぐことで、効率的な窓口運営を実現できます。

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AI翻訳を活用した窓口での多言語翻訳

AI翻訳は、自然な文章をリアルタイムで多言語に翻訳できることから、自治体窓口での外国人住民への対応に活用されています。窓口での会話や案内文をリアルタイムで多言語に翻訳することで、外国人住民との円滑なコミュニケーションを支援できます

TOPPANの「VoiceBiz® UCDisplay®」は、透明ディスプレイに翻訳結果が表示されるため、従来の翻訳機のように手元に目線を落とす必要がないのが特徴です。相手と視線を合わせたまま自然な対話が可能となり、安心感のある窓口対応を実現できます。

音声AI翻訳サービス「VoiceBiz®」

窓口向け透明翻訳ディスプレイ「VoiceBiz® UCDisplay®」

バックオフィスの効率化

AIは、文書作成やデータ入力、情報整理など、バックオフィス業務のさまざまな場面でも活用されています。ノンコア業務をAIで支援し自動化することで、職員はより付加価値の高い業務に注力しやすくなります。

生成AIによる議事録作成や文書校正

生成AIは、音声データや会議メモをもとに議事録を自動作成したり、文章の校正・要約・表現の改善を行ったりできることから、会議の録音データをもとにした議事録の作成や、通知文・報告書・答弁書などの文章作成・校正といった用途でも活用されています。

職員はAIが作成した内容を確認・修正するだけで済むようになるため、文書作成にかかる時間を削減し、業務を効率的に進められます。

生成AIとRAGによる効率的なデータ運用

RAG(検索拡張生成)は、生成AIが自治体の規程やマニュアル、過去の文書などを参照しながら回答を生成する仕組みです。庁内に蓄積された文書やデータを横断的に検索・要約し、必要な情報を迅速に取得する用途に活用できます

また、文書の分類やタグ付けも効率化でき、属人化の解消や庁内ナレッジの有効活用にもつながります。

TOPPANの提供する仮想統合データベース「Con:tegration®」は2026年4月から、AIエージェントによる検索機能を実装。LLM(大規模言語モデル)とRAGによる横断的な検索で、表記ゆれや簡易的なテキストからも精度の高い回答を返してくれます。

AIエージェント導入|データ利活用ツール「Con:tegration®」

AI-OCRとRPAの連携によるデータ入力の自動化

AI-OCRは、紙帳票や申請書の文字を高精度にデータ化し、RPAはデータ入力やシステム操作などの定型業務を自動化する技術です。AI-OCRで読み取った申請書や各種帳票のデータをRPAと連携させることで、基幹システムへの入力自動化などへの活用も検討できます。

これにより、手入力や転記作業を削減し、入力ミスの防止と事務処理の効率化を図ることが可能です。

AI-OCRソリューション

RPAソリューション

AI-OCRを活用した保育園入園業務の効率化

保育園の入園選考では、申請内容に応じた複雑なルールの「指数計算」が必要となるため、職員の負担が大きく、業務が属人化しやすいという課題があります。

AI-OCRで手書きの入園申請書をデータ化し、「指数付けロジックツール」と連携することで、定型的な指数計算や確認作業の自動化が可能です。これにより、審査・選考業務を大幅に効率化するとともに、職員の負担軽減や、住民対応など付加価値の高い業務へのリソースシフトにつながります。

AI活用を含む自治体DX事例

TOPPANは、LGWAN(※)環境を含む安全な生成AI活用基盤の提供をはじめ、業務効率化から住民サービス向上までを支援する自治体向けDXサービスを展開しています。実際の支援事例では、行政実務に即したAI活用を進めることで、職員の負担軽減とサービス品質の向上を両立させており、その対象は、窓口対応や文書作成、住民向け情報発信などさまざまです。

ここでは、TOPPANが支援したAI活用を含む自治体DXの事例をご紹介します。

※LGWAN(総合行政ネットワーク):地方公共団体を相互に接続する行政専用のネットワーク

医療機関への受診促進施策に寄与するAIの活用

愛知県東浦町で行われているのは、健診データやレセプト情報を活用し、骨粗鬆症リスク予測AIによって、将来的に骨折リスクが高い住民を抽出する取り組みです。

従来はアプローチが難しかった未診断・未治療の層についても、AIがハイリスク者を特定し、個別アプローチの対象者を約300名まで精査・明確化しました。抽出された対象者には検査キットや関連情報を送付し、自身のリスクを把握する機会を提供することで、医療機関への受診を促す行動変容支援を実施しています。

その結果、未診断だった住民のうち14名が新たに骨粗鬆症と診断され、早期治療や適切な介入につながる成果が得られました。

参考:AIと医療データの活用による医療機関への受診促進施策

受付業務のユニバーサルコミュニケーションを実現する翻訳システム

受付窓口における多言語対応の課題に対し、TOPPANは音声翻訳サービス「VoiceBiz®」を基盤として、翻訳システムの開発・提供を行っています。「VoiceBiz® UCDisplay®」は、透明ディスプレイに翻訳結果を表示することで、相手の表情を見ながら自然な対面コミュニケーションを可能にする仕組みです。

実際に、東京都のスポーツ大会ブースや観光案内所などで試験導入・実証実験を行い、インバウンド対応やユニバーサルコミュニケーションへの有効性を検証。文京シビックセンターへの導入なども行っています。従来のタブレット型翻訳で課題となっていた視線の分断や音声の聞き取りづらさを解消し、より円滑な窓口対応の実現を目指しています。

参考:窓口のユニバーサルコミュニケーションを支援

自動音声システムで開庁時間にとらわれない架電が可能に

千葉県柏市では、税務業務のBPR(業務改革)を実施し、ノンコア業務のBPOと、自動音声電話システムによる納付勧奨を行っています。従来の納付勧奨は電話やSMSで行っていましたが、開庁時間内に限られていたことから、仕事中の住民には電話がつながりにくいという課題がありました。

自動音声システムでの架電を導入したことで、閉庁後にも架電が可能になり、住民との接触率が向上しています。今後はRPAやAI-OCRの活用も検討し、さらなる業務改善と住民サービスの向上を目指しています。

参考:自治体の業務効率化を加速させる行政DX ボトムアップ型BPRとDX推進で実践する、持続可能な税務行政サービスの実現

自治体のAI導入におけるリスクと対策

自治体でAI活用が広がる一方で、個人情報や機密情報の取り扱い、生成される情報の正確性、利用ルールの整備など、導入時に検討すべきリスクも明らかになってきています。AIを安全かつ効果的に活用するためには、適切な利用環境の整備やガイドラインの策定、職員への周知・教育が欠かせません。

ここでは、自治体におけるAI導入の主なリスクと、安全性を確保しながら活用を進めるためのポイントを解説します。

個人情報や機密情報の漏洩

自治体でAIを活用する際は、住民情報や業務データなどの個人情報・機密情報が外部に流出するリスクへの対策が不可欠です。とくにクラウド型AIサービスを利用する場合は、データの取り扱いや保存場所、アクセス権限などのセキュリティ要件を事前に確認する必要があります。

LGWAN対応など自治体のセキュリティ基準を満たした環境や製品を選定し、安全性を確保したうえで適切に運用することが求められます。

出力される誤情報や著作権侵害への懸念

AIを導入する際は、生成された文章や情報に誤りが含まれる「ハルシネーション」や、学習データに起因する著作権侵害のリスクにも注意が必要です。

行政情報としての正確性を担保するためには、出力内容を確認する体制の整備が欠かせません。利用ガイドラインを策定し、AIの利用範囲を明確化するとともに、職員による最終確認プロセスを設けることで、安全で適切な運用を実現できます。

専門知識や導入ノウハウの不足

自治体におけるAI導入では、技術的な専門知識や運用ノウハウが不足していることも大きな課題です。システム選定から業務への適用までを自庁のみで進めることは難しいため、段階的な導入設計が求められます。

具体的には、職員向け研修や外部ベンダーによる伴走支援を活用しながら、一部部署でのスモールスタートから取り組むと効果的です。

自治体がAIを安全かつ効果的に導入するための事前準備

AIを安全かつ効果的に活用するためには、導入前にリスクを把握し、適切な準備を進めることが重要です。ここでは、リスクを軽減しつつAI導入の効果を最大化するために、事前に確認しておきたいポイントを解説します。

導入目的の整理

AI導入では、解決したい課題や達成したい目的を明確にすることが重要です。目的が曖昧なまま導入すると、十分に活用されず形骸化する可能性があります。

まずは効果が出やすい業務から対象を絞り、スモールスタートで取り組むことが有効です。成果を検証しながら対象業務を段階的に拡大することで、定着と効果の最大化につながります。

AI-Readyなデータ基盤づくり

自治体のAI導入では、AIを活用できる状態にデータを整備できているかが、導入効果を左右します。庁内には、規程やマニュアル、申請書、帳票、過去文書など多様な情報が蓄積されていますが、形式やレイアウトが統一されていない場合、生成AIやRAGで十分に活用できないことがあります。

そのため、次のような点をチェックし、体制を整えることが重要です。
● データがデジタル化・構造化されているか
● 部署ごとにデータが分散・サイロ化していないか
● 必要なデータへ適切にアクセスできるか
● データ品質(正確性・最新性)が担保されているか
● AIで利用できる形でデータを連携・管理できる基盤があるか

TOPPANは、BPO事業で培ってきた業務分析力やデータ加工・構造化技術を活かし、行政実務に即したデータ整備の支援が可能です

TOPPAN、NTTデータ、FPSC、デジタル庁「ガバメントAI源内」向け 大規模データセット整備を推進

AI利用ガイドラインの整備

自治体でAIを導入する際には、職員が安心して利用できるルールを整備し、利用時のリスクを認識したうえで、安全に活用できる体制を構築することが重要です。

たとえば、職員向けのガイドラインでは、次のような内容を整理しておくとよいでしょう。

●入力してよい情報・禁止情報
●個人情報の取扱い
●機密情報の管理
●AI生成結果の確認義務
●著作権・知的財産への配慮
●利用ログ管理

こうしたガイドラインを整備することで、安全性を確保しながらAIを適切に運用しやすくなります。

参考:デジタル社会推進標準ガイドライン

適切なAIの運用で持続可能な自治体DXを実現

自治体におけるAI活用は、業務効率化や住民サービスの向上を実現する有効な手段である一方で、リスクをふまえた適切な運用が前提となります。セキュリティ対策や利用ガイドラインの整備、目的を明確にした段階的な導入を組み合わせることで、安全かつ効果的なAIの活用が可能です。

AIを単なる業務支援ツールではなく、自治体DXを支える基盤として位置付けることで、持続可能な行政運営の実現につながるでしょう。

TOPPANでは、自治体の課題に応じたAI導入に向けた支援や活用を支援しています。適切なAI導入に課題を感じている方はぜひご相談ください。



TOPPAN SOCIAL INNOVATION WEB 編集部

参考文献

  • 自治体若手職員の離職を抑えるには-組織コミットメントからのアプローチ-(https://www.soumu.go.jp/main_content/000925649.pdf)
  • 自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第 5.1 版】(https://www.soumu.go.jp/main_content/001053408.pdf)
  • 自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(https://www.soumu.go.jp/main_content/000820109.pdf)

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